覚悟の響き【カガリ視点】〜心震える響き〜 2
はぁっ、はぁっ・・・カガリは全速力で廊下を駆けながら、苦味を帯びた表情を歪めた。
脳裏に甦るのは、モエギの泣きそうな表情と、『皆様から、口止めされておりましたので・・・カガリ様にはお伝えするなと・・・。』
ぽつりぽつりと零れた真実と、
『今、皆様は会議にご出席です・・・。
カガリ様が、暁でご出陣されることを、許すか否かをめぐって・・・。』楽観的過ぎた自分の浅はかさと、
『あっ、皆様のことを責めないで下さいっ!!
カガリ様のことを大切に想うがこそ・・・っ!!』そして、馬鹿が付く程篤すぎる、
部下たちの忠誠心だった。――バカヤロウっ!!!
目的の会議室が目の前に迫り、
カガリは会議室の扉を蹴破った。
カガリは瞳を閉じて大きく息を吸い込んで、荒れる呼吸を強制的に沈めた。
開いた瞳の先に捉えた存在に、大きく心臓が跳ねる。――ア・・・スラン・・・っ。
そしてアスランの視線の先を辿れば、そこには厳格に口元を引き結んだ幕僚長が立っていた。
鳥肌が立つような物々しい空気にカガリは唇を噛み、硬く拳を握り締めた。『いざと言うときは、私も暁で出るからな。』
あの発言を何の覚悟も無く言った訳ではなかった。
オーブの為にもてる力の全てを注ぎたい、
その為に、今私に出来ることはオーブの代表首長として職務を全うすることであることは、
わかってる。
でも、もし、こんな私の力でも、出来ることがあるなら、
それが暁で戦場を駆けることであっても、
私はあらゆる手段を排除しない。
夢を叶える為に。
この夢は、私だけの夢じゃないから。――ここにいる、みんなの、
いや、もっと沢山。
オーブのみんなの夢だから・・・っ!
こんな風に、誰かの感情の波を立てたくて言った言葉ではなかった、
築き上げた信頼にひびを入れたかった訳じゃない、
それでも、自分の発言が招いた今という結果に、カガリは小さく首を振った。
滲みそうになる瞳を戒めるように細め、
何より先に状況確認をするために、中央に鎮座するキサカの元へ駆けた。
が、キサカは、そんなカガリの思考を先回りしたように、カガリの言葉を制した。
キサカによって静かにかざされた手からカガリは読み取る、
“ 結末を、見守れ ” 、と。
キサカの馳せる視線に倣うように顔を上げれば、
依然として対峙する幕僚長とアスランがそこにいた。彼等だけが纏う、音の無い世界に響くのは
けたたましいまでの自分の鼓動。幕僚長は日本刀のように冷涼な眼光を鋭く光らせ、
アスランは灼熱を帯びた眼差しを静かに向ける。強く迷わず
互いに剣を構え、
貫くのは、信念――それは、オーブの戦い方であると、
遠く響くようにカガリは感じた。
無意識に、左手を右手で包み込み
鼓膜を叩くような鼓動を抑えるように胸にあてた。
言葉も、呼吸さえも遮断する
沈黙が空間を支配する。
「条件がある。」
幕僚長の地を這うような声が、沈黙を切り裂いて、
カガリは息を詰めて幕僚長を見遣った。「アスハ代表が、暁でご出陣される場合は、
死ぬ気で護れ。」幕僚長が折れたことを示すこの発言に、
会議室の一方で歓声が上がり、他方で譲歩がもたらす特有の溜息が聞こえた。
しかし、カガリは驚愕に瞳を見開いた。――違う・・・、人は、生きるために護るんだ・・・っ!!
まるで会議の幕が一気に下ろされたように、開放的な空気が流れこむ会議室を
カガリは慌てて見渡した。――待てっ、みんな、違うっ!!
焦燥に埋め尽くされるように言葉は声にならず、
ただ、乾いた息遣いだけが唇に乗る。
違うと首を振った、その時だった。
アスランの声に、カガリは顔を上げた。
「その条件をのむことは、出来ません。」
幕僚長は眉間に険しい皺を刻み、
会議室からは驚愕と不快感を示すどよめきが湧き上がった。――アスラン・・・。
アスランは、その空気に靡くことも染まることも無く、
静かに強く、射抜くように言葉を紡いだ。「生きて、護りぬきます。」
揺ぎ無いアスランの覚悟が、響く。
カガリの心を、震わせる。
まるで優しく包み込むように。灼熱を帯びる眼差しに、心強さを覚える。
何故だろう、どうすることも出来なかった。
無限の加速度で高鳴る鼓動も、
焦がれるように熱くなる胸も、
薫るような過去も、
泣きたいような衝動も、
胸に仕舞い続けた、アスランへの想いも。
“全く、ザラ准将は可愛げが無いっ。”
“御手柔らかに、お願いします。”
幕僚長とアスランの会話を遠くで聴きながら、
カガリはぎこちない仕草で、
手の甲で頬を擦った。――きっと今、
顔、あかい・・・――アスランの、せいだ・・・
――バカ・・・ヤロウ・・・
アスランの言葉が残光のように胸に残って、
頬を擦っても、擦っても、
熱が消えない。
消せない。でも。
消せない想いがあるのなら
胸に仕舞わなくちゃ。アスランに、見つからないように。
誰にも、気付かれないように。早く。
傷つかないように、そっと。カガリは息を詰めて、ぐっと下唇を噛んだ。
飲み込む想いの深さだけ胸を刺す痛みに、
歪みそうになる表情を隠すように俯いた。
何処からとも無く沸き起こった割れんばかりの拍手。
それは、平和の福音。
その音の源を一つ一つ確認するように、カガリは出席者ひとりひとりに面差しを向け、
そして深々と頭を下げた。
その様子に慌てた武官や文官らが、がたがたと派手な音を立てて立ち上がった。
代表、お顔を上げてください、と口々に言いながら。「みんな、すまなかった。
私の言葉が足りなかったせいで。」顔を上げたカガリの琥珀色の瞳には、アスランと同じ覚悟の威光が宿り、
凛と響く言葉は、恵の雨が大地を潤すように、彼等に染み渡っていく。「そして、ありがとう。
私も、生きてこのオーブを護り抜く。
だからこれからも、力を貸してほしい。
共に、平和を
実現していこう。」そして、スコールの後に広がる青空のように晴れやかな空気が
会議室を満たした。
カガリ視点Fin
→キラ視点へ続きます!
* * * * *
【あとがき】
カガリ視点、いかがだったでしょうか?アスランにときめくカガリが見たくて、カガリ視点を書きました。
本編後、カガリとアスランが代表と准将として、
オーブのために尽力する日々を過ごしていても、
きっとこんな風に、予期せぬタイミングで
どうしても相手に惹かれてしまうことが、あると思います。
そんな時、アスランとカガリは
その想いを表情に出すことも、相手に伝えることも、
きっと選ばないと思います。今回のお話では、カガリはアスランへの想いを
懸命に、胸に仕舞います。
想いの深さだけ胸を刺す痛みは、どれ程のものでしょうか。
しかし、アスランを大切にしたいから
カガリは想いを胸に仕舞うことを選びました。相手を大切する方法は人それぞれに沢山あって、
アスランとカガリの場合は、とても難しく、
絶えず痛みを伴う方法だと思います。
それでも大切にし続ける2人に、筆者は強さを感じます。
さて、引き続きおまけをUPいたします。
最強の彼等の登場です(笑。
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