6-17 聴こえる





――声が、聴こえる。

――君の声、
   あの人の声

――全部、失った声。

『何も知らなかった。何も知らないことは罪だ。』

――そう、僕は何も知らなかった。
   僕が、生まれてきた時のこと。
   その意味も。
   それが、僕の罪。

『生命を穢した。』

――そう、僕は生命を穢した。

『血に、細胞に、人間の欲望が、負そのものが沈殿している。
穢れ、そのものだ。』

――それが、僕の罪。
   僕の遺伝子に刻まれた、罪。

『沢山の赤ちゃんや、子どもたちや、ナチュラルの人たちや、コーディネーターの人たちや・・・』

――Freedom Trail。
   自由への軌跡を歩かされた沢山の命。

『みんな殺されたんです。あなたを創るために。』

――僕以外、みんな死んだんだ。
   選別と淘汰の名の下に
   潰されて
   消されて。

『あなたのために・・・。あなたのせいで・・・っ。みんな、死んだんです。』

――だから、僕が殺したんだ。
   あの命を、全て。
   それが、僕の罪。

『どうしてっ!!どうして、生まれてきたのよっ!!』

――どうして、僕は生まれてきたんだろう。
   何のために、生まれてきたんだろう。

『生まれてこなければ、良かったっ!』

――そうだね、生まれてこなければ
   良かったんだ。




『キラは生まれてきて良かったっ!
私は、キラと出会えて良かったっ!
キラと兄弟で、良かったっ!』

――違うよ、カガリ。
   僕たちは違わなくちゃいけない。

『僕たちは、同じだよ。』

――違う、君と僕は違う。

『ほらっ、同じだろ?
この瞳も、頬も、唇も。おんなじだ。』

――駄目だっ、僕と君は違わなくちゃいけないっ。

『私たちは、ひとつの命を分け合って生まれてきた。』

――違ってよ、カガリ・・・。
   君を、穢したくないんだ・・・。

『知ってるんですよ。
Freedom Trail。キラさんのことですよね。』

――そう、それは僕の、
   僕だけの罪なんだ。

『だから帰ろう、みんなのところへ。
僕が、連れて行ってあげる。』

――嫌だっ、僕は、
   軌跡には、もう戻らないっ。

『生そのものが悪の象徴だと、
何故気が付かなかった。』

――生きていること、それ自体が
   僕の罪。

『なんでっ!!なんで、生きてるのよっ!!
今もっ!!』

――僕の命。

『だって、お前は今、此処に居るんだ。』

――そう、僕はここに居て、

『生きながらえているだ、此処でっ!!』

――呼吸をして
   鼓動を打って

『命を踏みにじってっ!!!』

――だから、

『消さなくちゃいけないんだっ!!
僕も、身体も、遺伝子もっ!
全部っ!!!』

――罪を知っても、
   罪を引きずったまま。
   今、生きていること、
   それが、僕の罪。
   だから、


『消えろおぉぉぉぉぉおおおおおお!!!』


――僕は、死ななくちゃいけないんだ。




『それが、キラの真実か。』

――そうだよ、アスラン。
   これが、僕の真実なんだ。

『それが、わたくしの真実です。』

――違う。
   それは、真実じゃない。

『永久の、真実です。』

――違う。
   それは真実なんかじゃない。

『私はキラを愛しています。』

――違う。
   それは、真実であってはいけない。

『あなたは、あなたの望みです。』

――違う、
   僕は、
   望んではいけない。

『そして、わたくしの望みです。』

――僕を、
   望んではいけない。

『わたくしは、キラと共にありたいと、望みます。』

――君が望めば、
   ラクス、
   君が罪になる

『キラと共に生きていくことを、望む。』

――カガリ、
   君を穢すことになる

『それでも、同じ命だ。
大切な、命だ。』

――命は、違う
   僕は、死ななくちゃいけない
   生まれてくる前へ
   戻さなくちゃいけない

『逃げるな。』

――違う。
   僕は・・・、
   護りたいんだっ!!

『俺も、共に戦う。』

――駄目だっ!

『この世界に、キラと一緒に生まれてきたことを、幸せに思う。』

――やめろっ!

『生きろ』

――駄目なんだっ!

『キラを、望む。』

――どうして・・・っ

『キラを、望みます。』

――どうしてっ!!






――どうして・・・

『キラ。』

――どうして、君は僕を止めてくれたの

『キラっ。』

――どうして、君は僕に会いに来てくれたの


「キラ。」

――どうして、
   君は僕を呼び続けてくれるの


「キラ。」

――今だって、聴こえるんだ
   君の歌が。

――愛したかった、
   君の声が。

「キラ。」

――愛する資格なんて、無かった
   君を
   君と
   未来を
   望むことは許されない

――許せない


「キラ。」

――でも、感じるんだ
   光を

『キラっ。』

――眼差しを

『キラ。』

――聴こえるんだ、
   僕を呼ぶ声が

――君の、歌が

「キラ。」

――僕は・・・

――本当は・・・



「ラクス・・・」



――本当は・・・

――ただ、君と・・・





光の世界から差し伸べられた手が誰の手であるのか見間違う事無く、
キラは迷わず手を重ね、
指を絡め、
そして引き寄せ抱きしめた。

「ラクス・・・」

ずっと欲しかった君を抱きしめた。

「キラ。」

ぬくもりをこの身体に、存在を魂に刻むように。




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