キラは瞳孔を開いたまま
瞳を貫くような光に晒された。
一瞬にして、有無を言わさぬ力によって
漆黒の世界は白の世界に明転する。
光によって奪われた視界を埋め尽くしたのは、
純白に染め抜かれた
闇の世界だった。
逝く先から降り積もる粉雪と、
全てを覆い隠し埋め尽くしていく粉雪と、
そこに残してきた半身と――。
光の粒が弾けた様な、半身の声が聴こえる。
『キラーっ!!』
自分を呼ぶ声が聴こえる。
『私たちは、ひとつの命を分け合って生まれてきた。』
――違う・・・。
『同じだ。私と、ひとつだ。』
――違う・・・、
違って・・・っ。
そうじゃなきゃ、
僕も、
君も、
罪になる・・・。
『大切な、命だ。』
――違うっ。
この命があるから、
みんな死ななくちゃいけなかったんだっ。
――自由なんか無かった。
僕の先に、
僕の跡に。
だって、
僕の足は
屍の中に埋まってるんだ。
――僕が手を動かせば、
誰かがまた傷つくんだ。
誰かの命を
奪うんだ。
この手で
あの命を奪ってきたように。
――そして、世界に証明してしまうんだ、
これが、
自由への軌跡の
終着点だって。
――その証拠にほら、
目の前にいるじゃないか、
僕が・・・。
創られた、自由が・・・。
『この世界に、キラと一緒に生まれてきたことを、幸せに思う。』
――この先に幸せなんてない。
僕に、
幸せなんて存在しない。
だって、
僕は、
僕の存在が
人間の罪だから。
『キラを、望む』
――君が望んでも、
世界が拒む。
人間の欲が欲しても、
心が拒む。
望まれる存在じゃない、
望んじゃいけない。
――だって、ほら。
今、目の前で動いてる。
創られた僕が。
人間の負が、
今も動いてる。
それが、
望まれてる。
――それなら、
僕が消さなきゃ。
僕と一緒に、
僕が
僕を
消さなきゃ。
遺伝子に刻まれた自由への軌跡全てを消し去るように、キラはもう一度引き金を引いた。
が、そこに感じるはずの手ごたえが、無い。
まるで自分の掌を探すように視線を彷徨わせると、ストライクの右手がビームライフル諸共消えうせていることに漸く気が付いた。
それが、先の目が眩むような光の拠出であったということも。
「知ってるよ。」
無邪気さが嘘のように消えた、記憶の中の自分の声が聴こえた。
現実の声として。
痙攣したように震える視線を無理矢に音源へと向けると、
そこで果て無き闇を映し出した漆黒の機体が銃口を向けていた。
「じゃぁ、死んでいいよ。」
キラの敏感すぎる感性が、
条件反射的に構えたシールドの先の、
自分を包む機体の先の、
対峙する機体に包まれたその先にいる自分と同じ存在を確かに感じさせた。
「キラは、もういらない。」
その幼子の無垢な瞳からは、
希望に煌く光が消えていた。
キラの身体は、まるで遺伝子がざわめき出す様に
自分の意志を完全に無視して震えだした。
それを打ち消すようにキラは左手で抜刀術のようにビームサーベルを抜いた瞬間、
激しい振動がストライクを包んだ。
――何が・・・っ。
キラは自分の身に起きた事態も状況も理解できないまま
視覚で捉えきれない程の速度で背後から無数の星が飛んでいく様をただ瞳に映していた。
そうして漸く気が付いたのだ、
自分がエレウテリアーにシールドごと蹴り飛ばされたのだと。
過ぎ行く背景のその中央で
闇色の機体の煌きが果て無き宇宙に溶けていく。
「僕が、キラになる。」
その言葉を残して、
ケイは宇宙の闇へ消えた。