イザークとディアッカがさらった情報は、2人にある仮説を抱かせた。
「つまりさ、メンデルとバルティカは繋がっていた、
これで間違い無いんじゃないの?」
ディアッカはイザークにカップを手渡し、PCの前に戻った。
室内には香ばしいエスプレッソの香が立ち込めている。
「だが、確証が無い。」
メンデルとバルティカ帝国との関係は、仮説に近づく程その確証を要求した。
「それって多分、メンデルにあるんだろうな。
っと、また切れた。」
しかし、その確証を探ってハッキングを繰り返しても切断されるばかりだった。
「奴らは何をもたもたしているっ。」
その切断は人為的に行われているのではなく、 回路そのものが破壊されているからだと踏んでいた。
その推測通りであるならば、仮説を裏付ける確証を得るためにはメンデルの修復を待つ他無かった。
同時刻。
メンデルではシステムの復旧作業が、雑談を交え穏やかな空気の中進められていた。
「うぅ〜ん。」
マレーナはしなやかな腕を伸ばした。
体の動きからワンテンポ遅れて胸が呼応する。
「じゃぁ、私、もうここ抜けていいわよね。」
マレーナは長い睫に隠された流し目をメイリンに向けた。
メイリンは不意に打った鼓動に驚き、頬を染めながら答えた。
「はっ、はいっ。
後は私たちでシステムを復旧すれば完了ですからっ!」
急に大きくなった鼓動の訳を理解する間も無く、むしろそれをねじ伏せるようにメイリンは顔を伏せた。
くすりとマレーナは笑みを浮かべて、メイリンの頬に触れた。
「おいしそうよね、メイリンって。」
マレーナはこざっぱりとしたメイクで済ませているにも関わらず その表情は妖艶で、
香立つような雰囲気を香水のように全身に纏っていた。
「どっ、どういう意味ですかっ!」
きゅっと目をつぶり顔を紅潮させるメイリンの純粋さが、マレーナの心をくすぐった。
「ふふ。いちごのマシュマロみたい。
やわらかくって、あまくって・・・。」
側で作業をしていたシステムエンジニアはごくりと生唾を飲み込んだ。
「それじゃ、共食いですっ!」
メイリンは全身で否定するように頭を振った。
マレーナはチロリと舌を唇に這わせ、
「じゃ、また後でね。」
メイリンを含め3名のシステムエンジニアを残し、研究室を後にした。
同時刻。
キラとアスランも同様に作業を進めていた。
作業中になされる近況報告やとりとめも無い話は、離れていた時間を埋めていった。
「どうして、ストライクを選んだんだ?」
「ラクスがね。」
今日、その名を聞くのは何度目だったであろうか。
「力を持ちすぎると、それは人にとって脅威になるって。
僕も同じように思うから。
だからストライクにしたんだ。」
キラの瞳の端に、早くも懐かしさの色彩が刺していた。
「だが、ストライクとは少し違うとコル爺が言っていた。」
「そうなんだっ。やっぱり、新しい技術を取り入れてね・・・。」
作業中の画面を縮小して、キラはストライクの画像を映し出した。
同時刻。
アンリは艦内で修復作業に用いる機材を探し、
ヴィーノとコル爺は中央棟から東に離れた研究室で修理にかかっていた。
その頃。
イザークとディアッカが再び別ルートからハッキングを開始した。
再三切断されたその箇所で、一瞬2人の手が止まった。
「よし、クリアっ!」
ディアッカがイザークにハイタッチしようとした、その表情が固まる。
瞬く間に切り替わり更新される画面。
それはイザークとディアッカにとって、暴力的な行為に他ならなかった。
「これって・・・!」
「意図的に情報を流しているっ!誰だっ!」
それは不意に投げつけられた確証だった。
求めた情報を手にし、確証により仮説は事実へと変貌を遂げた。
しかしその契機が2人を逆撫でした。
売られた喧嘩を買わない2人ではない。
「俺は奴を追う。引きずり出してやる。」
「OK!情報はこっちでGETする。」
イザークとディアッカは無意識に、うっすらと笑みを浮かべていた。
久しく縁遠かった刺激に身を浸して。
同時刻。
「ストライクは、僕の戦いのはじまりだったから。」
キラは過去を抱きかかえ愛しむような笑みを浮かべた
その時―― メイリンの悲鳴。
そして1発の銃声がこだまする。
それは、 始まりの合図。
銃声のファンファーレだった。