2-1 前途




オーブ領海線での一件を機に、
プラントはメンデルの再調査と 2機のMSの拠出とピアニッシモの流出経路の探査に踏み切った。
オーブ領海戦場で起きたという事実から、
オーブは技術協力の形式でメンデル再調査へ加わることとなった。
この2つの任務を一手に引き受けたジュール隊は、
キラを中心として半独立的に活動する調査隊を組み込んだ。
先の戦争の間におこなわれたメンデルの調査から、
施設内の荒廃が報告されていた。
そのため調査隊には現在ジュール隊に在籍する メイリン・ホークやヴィーノ・デュプレなどのエンジニアを重点的に加配し、
メンデルの調査が円滑に行える程度までの復旧を第一の任務と位置付けられた。
その間、残りのジュール隊は、
プラントに残存するメンデルに関する資料収集とピアニッシモの製造・保管の調査、
そしてその背後にある組織の動きを明らかにすることを任務とした。
ラクス帰国を機にオーブの技術者がジュール隊に同行し、
メンデル再調査隊はプラントにて技術者を補強し、体制が整い次第別行動となった。



「隊長!」
ヴィーノの声は、確かにキラに届いていた。
キラが左手を右手で包み顎を支える恰好で考え込んでいる。
見かねたアスランがキラに声をかけた。
「キラ。」
キラはぱっと顔を上げた。
「あっ、はい。」
案の定、キラは隊長という役職に未だに慣れない様子だった。
キラらしさに、アスランは笑みをこぼした。
「もー、しっかりして下さいよ!
MSに乗ってる時は、あんなに強くて恰好良いんだからっ!」
ヴィーノは陽気な笑顔を見せた。
「ちょっと、確認しておきたいことがあって・・・。」
ヴィーノの言葉を聞いて、アスランは席を外した。

隊長であるキラの穏やかさと、
プラント・オーブ双方の技術者の人柄からか、
艦内の空気はゆったりと流れていた。
メンデルの傷とキラの繊細さを考慮すれば
場が朗らかであればある程キラの心理的負担を軽減できるという点では
良い傾向であったことは確かだ。
しかし、全体的に緩んだ糸に起因する惨事の危険性はその分高まった。
アスランはイザークとディアッカの艦長としての力量に改めて驚かされた。
個性の強い旧ミネルヴァの乗組員を律しながらも、
それぞれの能力を潰さずに泳がせていたことが見て取れたからである。

調査隊が搭乗した小型艦の装備は必要最低限度に抑えられ、
搭載しているMSは1機のみであった。
オーブ領海線に現れた所属不明の2機、
もしくは関係する組織に遭遇した場合は
戦闘そのものを回避しなければ危険な状況に陥る可能性が高い。
しかし、この艦を打てばプラントの報復に遭うことは明白であり
無闇に攻撃を加えられるとは考え難い。
だが一方で、オーブ領海線での発砲を考慮すれば、
真実の先にいるものたちへはこちらの想定は通用しない恐れがあった。



思考をめぐらせながら、自ずと足がMSに近づいていた。
MSの前に小さな白髪の老人が佇んでいた。
アスランは優しく声をかけた。
「コル爺。こちらでしたか。」
オーブの技術協力者として招かれたMSエンジニアのコルテーユ・ガーディナーだった。
小さなお髭をたくわえた小柄な老人は、
視線を外さずに、じっと機体を睨んでいる。
その先に見ているものが何か、アスランは感じ取っていた。
「懐かしい、ですか?」
「あぁ、そうじゃの・・・。」
唸るように、コル爺は答えた。
「ストライクに、そっくりだ。」
「うむ・・・。」
アスランの言葉にコル爺は物思いにふけりながら答えた。




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