12-30 光
12-30 光離れていく翼に手を伸ばし硬質な壁に阻まれる。
「シン――っ。」
声も何もかも届かない。
既視感にカガリは救難ポットの壁面を叩いた。
自分は何度同じ過ちを繰り返すのだろう、
また誰かを戦いに巻き込んで。「シンっ、戻れっ。」
振り向かない翼。
その手には銃が握られている。――駄目だっ、お前を戦わせたくはないっ。
「シンっ。」
≪カガリ様、御無事ですかっ。≫
ルナの通信が入る。
後方援護に回っていたルナが救難ポットの回収に来たのであろう。
このままカガリがジュール隊に戻れば、間違いなく2艦で戦闘が開始される。
約束を先に反故したのは奴等だが、
シンの行動は明確な戦闘意思を示すものであり、
解釈の仕方によってはジュール隊が不利になる。
シンの行動は奴等に攻撃の大義を与えてしまったのだから。――だったらっ。
「ルナ、私を奴等の所まで連れて行け。」
≪何をおっしゃってるんですかっ、そんな事出来る訳――≫
ルナの言葉をカガリが遮る。
「頼む。
それしかジュール隊を護る方法が無いんだ。」そこにディアッカが割り込む。
≪手遅れだ。今からじゃ戦闘は避けられねぇ。≫
間髪入れずにカガリは畳み込む。
「今だからだ。
何も知らないシンを戦わせちゃ駄目なんだっ。」ディアッカの脳裏にカガリの言葉が浮かぶ。
『私に何が出来るか分からないけれど、
出来うる限りの全てをしたい。
お前たちに危険が降りかかる事は、絶対に避けたいんだ。』メンデルでカガリとムゥを救助した時の言葉。
“出来うる限りの全て”を今この瞬間にも尽くそうとしている。
あまりにもカガリらしい行動に口角が上がった、と同時に受信した暗号文。≪全く、世話が焼けるぜっ。≫
そう言い放ってディアッカは最大出力でインパルスの元へ向かう。
一方のルナは眉根を寄せた。
――“何も知らない”って…。
その言葉は裏を返せばカガリは知っているということであり、
ディアッカとのやり取りから、おそらくジュール隊の上層部も知り得ている情報が、
ルナやシンを始め、隊には知らされていないことが読み取れる。――どういう事…。
透明な水に一滴の墨汁が垂れたように疑念が広がっていく。
しかし、――とにかく今はっ。
疑念を断ち切り、ルナはカガリ救出のため救難ポットへと急いだ。
この判断と行動ができるからこそ、イザークとディアッカから信頼されていることを
ルナはまだ知らない。と、ルナの画面にも暗号文が表示され
“何、これ…。”と呟きを落とした数秒後、ディアッカの通信が入る。≪ルナ、ニュートロンモードに切り替えろ。
カガリはそのままで。こっちで遠隔操作する。
急げ、やられるぞっ。≫≪ニュートロンモードって…、まさか核がっ。≫
「そんなっ。」
カガリは息を飲む。
奴等はネビュラやピアニッシモを始め、使用、製造及び保持を禁止された兵器を用いてきた。
ならば核でさえも躊躇わずに撃ってくるだろう。「駄目だっ、やめるんだっ。」
救難ポットのモニタの輝度が抑えられた。
それが引き金のように、
光が全てを飲みこんでいった、
ジュール隊も、銃口を向けたMSも、敵艦も。
核が放つ死の光――。
人は世界に核を放つ度に生命を焼き払い、
二度と過ちを繰り返さぬと約束を結び、
そして争いは約束の緒をいとも簡単に切り捨てる。
人はまたしても核を放ったのだろうか、
永久の平和を願うこの世界に。
カガリは真実に目を凝らす。
視覚を奪われた光の世界の中央に差す、
紅の色彩――カガリの震える唇が名を紡ぐ。
その拍子に散った涙が
唇の端を濡らした。「アスラン…っ。」
≪こちらはオーブ軍捜索隊隊長、アスラン・ザラだ。
貴鑑に命じる、今すぐ投降せよ。
さもなければ、
討つ。≫
霧が晴れるように光が散っていく。
最初に姿を現したのは紅の光。
そして敵艦の黒い影、続くようにMSが浮かび上がる。開かれた視界、
その中でアスランの銃口は敵艦に向けられていた。
ブリッジに触れんばかりの距離で
銃口に紅い光が灯る。
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