11-21 会いたかった人
白い闇に飲み込まれたのは
一瞬だった。
宇宙を滑る光の矢が
止むことは無かった。立ち向かう命、
星屑のように散る光。その中に紛れ込む
声。≪お前もコーディネーターであれば分かるだろうっ!
どちらに正義があるかっ!!≫明かされた
真の狙い。≪これが自由への軌跡なのだ!
我々は今、その上にいる!≫声が鼓膜を震わせて
白い闇が無限の加速度で広がった。降りしきる雪。
言葉も
音も
熱も
一瞬で白に塗りつぶされる。この闇に窒息する。
その瞬間
光を見た気がした。暁の光。
白の世界の中で
光に手を伸ばすよりも先に
全てが飲み込まれていった。
”何故、生きることを選んだ。
あれが事実であると知りながら。”――どうして・・・・。
粉雪はまるで二重螺旋を描く様に舞い降りる。
真白な闇に問いは溶け
雪のひとひらに変わる。
降りしきる粉雪、
そこに砕かれた未来を感じる。自由への軌跡の名の下に
無数の命が奪われていった。切なる夢に情熱を燃やし
労苦と英知を注ぎ、
希望に瞳を輝かせた人々。未来の創生のために
奪われ続けた人間の尊厳。
繰り返された搾取。
止まぬ死体の生産。潰えることの無かった
人間の欲望。その結実として自分。
この存在は
許される筈はない。
奪われ続けた命が許す筈が無い。歴史から抹消されても
血ぬられた無数の足跡が消えることは無いのと等しく、
遺伝子に刻まれた罪が許されることは無いのに。私は
罪の一つで
憎しみの一つで、
哀しみの一つなのに。”何故、生きることを選んだ。“
胸を貫く問いを受け止めるように
カガリは胸に左手を当てた。右手が無意識に求めるのは
左手の薬指。
今はそこに無い想いの欠片を
そっと抱きしめる。――アスラン・・・。
浮かぶのは愛しい人の名。
祈るように瞳を閉じれば
微かな光を見た気がした。この光を
私は知っている。忘れてはいけない光。
違う、
忘れたくない。忘れないと
約束した光。鮮やかに蘇る記憶が
カガリの瞳を開く。『俺は、
同じ夢を描いて
カガリと共に生きていきたい』――アスランが・・・。
頬を伝う涙が輪郭を滑り落ちる。
それは粉雪のひとひらに変わること無く
足元へ降りて
真白な世界に色彩を加える。
涙の色と
ぬくもりを。――伝えて、くれたんだ・・・。
暁の世界で。
――夢を、
願いを、――真実を・・・。
だから。
――私も、
アスランと同じ夢を描いて
共に生きていきたい・・・
だから・・・。私の遺伝子に憎しみと哀しみの罪が記されていても
成された全てを知っても
それでも、生きていきたいと願う。――こうして生まれてきたからこそ、
すべきことがあると、
思うから・・・。――共に闘う、
仲間がいるから・・・。――この夢は、
私だけの夢じゃないから・・・。
”そうか・・・アイツが・・・。”
――え・・・?
何故だろう
心に寄り添う気配がした。繰り返された問い、
それは何処から来たのだろう・・・。私・・・?
違う、
貴方は、誰・・・。“宿命を負っても直、
生きる道を選んだのであれば“目をあけようにも
白い闇が乱反射して
あまりの眩しさに瞼が拒む。“其方の信念を貫け。”
でも、今思い出さなくちゃいけない。
貴方が誰なのか。“明日が見えずとも、”
私は知ってる。
貴方を。“振り返った先に
誰の姿も見えずとも、“それだけじゃない、
きっと何処かで会ったことがある。“歩みを止めず、
己の信ずる道を進め。“なのに、
白い闇は記憶さえも発光さるから
もどかしい。“世界を護る
覚悟があるのなら。”思い出さなくちゃいけない、
貴方を。“人を変え”
その手をつかまえて、
連れ出して、
共に生きなくちゃいけない。“世界を変え”
でもそれは、
私の願い――?“共に生きる未来を”
違う、
私だけじゃない。
誰――“夢とするならば。”
がむしゃらに記憶に手を伸ばす。
白濁した世界で空を切るだけで
この掌には何も残らない。
目を凝らし
耳を澄ます。諦めない、
諦めたくない。だってこれは――
――え・・・
ふいに浮かぶアスランの姿。
ザフトの紅い軍服に
怪我でもしたのだろうか
腕を固定されている。宇宙を浴びるように
見上げている。
その瞳に哀しみが薫る。その瞳に映していたのは――
「・・・お父・・さん・・・。」
一瞬で白い闇が砕け散る。
残り霞の向こうに見た銀色の光。
星のように眩いそれは
薫る様な哀しみを胸に残して消えた。
宇宙をいくら探しても
見つからなかった。
首を振り、手を伸ばしても
悪戯に宇宙は滲むばかりで
悔しさに噛みしめた唇に涙が落ちた。
ずっと、会いたかった。
もっと、話がしたかった。
あなたと。
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