――あいつの顔・・・。
何かあったのか?
いや、でもあいつなら・・・。
信じよう、そうカガリはゆっくりと瞳を閉じ、
真直ぐに前を見た。
「紹介するよ、カガリ。」
目の前の人物に対して、カガリが抱いた第一印象は中性。
「はじめまして、独立自治区ソフィア総代のカミュ・ハルキアスと申します。
お会いできて光栄です。」
カミュは手を差し出した。
と、カガリは突発的な頭の痺れを感じ、
一瞬視線がぐちゃぐちゃに揺れた。
視界が、まわる。
カガリは懸命に視線を定め、差し出された手を丁寧に握り
「はじめまして、カガリ・ユラ・アスハです。」
と声を絞り出した。
「カガリ?」
ロイはカガリを支えようと手を添えるが、カガリはそれを制した。
「失礼した。」
毅然と振舞うカガリ。
「ご気分が優れないのですか?」
カミュはカガリを覗き込んだ。
その時、初めてカガリはカミュの瞳を見つめた。
引き込まれた。
――同じ色・・・
まるで背景が透けて見えるように薄い色素と、
男とも女とも見える中性的な姿。
その瞳の強さに不思議な引力が宿っている、
その容姿とは不釣合いな程。
むしろそのアンバランスさが、
瞳の引力をより強くしているようだった。
「お酒を飲みすぎたのかもしれません。」
ロイは咄嗟に出鱈目なことを言って、その場を取り繕おうをした。
カガリは乾杯以降、酒を飲んではいなかったことをロイは知っていた。
「どうぞ、こちらのベンチにおかけください。」
カミュと体が触れたとたん、カガリの頭をさらに強い痺れの波が襲い、
全身に広がっていくようだった。
出会った者を目の前にしていい加減な立ち振る舞いはしたくない。
カガリの持つ、人間にたいする誠実さ故に、
痺れを押してカミュと向き合った。
「ソフィアは大学や研究室、技術開発施設など世界の英知が集結するコロニーの一つとして、
オーブからも沢山の留学生や研究者を受け入れてくださり感謝している。」
カガリは丁寧に感謝の意を表した。
カミュはひざまずき、紳士的にカガリの手をとった。
「いえ、感謝を申し上げるのはこちらの方です。
今後ともオーブとの関係を友好に保ち、
互いの国のため、 さらには世界の発展のため、
学術や技術を還元しあっていきたいものですね。」
カミュのやわらかな笑顔に、カガリは精一杯の笑顔で答えた。
しかし、カミュの目には
陽だまりのようなあたたかみを湛える笑顔とは反対に
カガリの肌が雪のように白く冷たく映った。
カミュは確信したように頷いた。
そのしぐさに、カガリは疑問を覚えた。
しかし、まるで体中の細胞が反応するような痺れが、
その先の思考を妨げた。