1-6 瞳の先




「イザーク、あれ。」

ディアッカが顎で示したその先に、
イザークは駆けて行くアスランを見た。
「いい顔してやがる。」
イザークは皮肉を言った。

アスランは戦場で見せた表情をしていた。
それはイザークとディアッカには見慣れた、
そしてこの場には不釣合いな顔であった。

「何かあったな。動いとく?」
ディアッカはイザークを見遣る。
「その必要は無いだろ。
ここには各国の代表や、政界・財界の要人が集まっている。
こんな場所でテロを起こす馬鹿はいるまい。」
テラスの階下では人々が笑い、舌鼓を打っている。
そののん気さがイザークを苛立たせる。
何も知らない、何もしない、命懸けとは無縁世界。
そんな奴が世界には多すぎる。
「だよな、一発で世界を敵に回すことになる。」
ディアッカは気だるそうに頬杖をついた。
ディアッカもイザーク同様、階下の人々に顔を向けていた。
ただ、目に映していただけだった。
苛立つ代りに気持ちが冷めていく。

「万が一その馬鹿がいても、アスランが動くなら問題ない。
戦艦が何隻来ようと返り討ちだ。」
「まーな。そういう意味じゃ、安全だけど。
でも・・・、あいつの顔。」
ディアッカは唇に手をあてる。
イザークはグラスのワインを一気に煽ると、
テーブルを叩くようにグラスを置いた。



アスランは屋上の移送機に搭乗するとすぐにインカムをつけた。
「状況を説明してください。」
オペレーターの口調が、その異常さと焦りを表していた。
「オーブ領海付近に所属不明のMSが接近中です。
数は1。ライブラリー照合できません。」
アスランは眉をひそめ、インカムに手をあてる。
「オーブ領海線到達予定時刻は。」
「最速で15分です。
ただしMSの進行速度・方向が大幅に変化を繰り返していますので、
正確な時刻は割り出せません。」
「了解した。紅の発進準備を。到着次第、即、発進する。」

――何処の国だ、いやテロリスト・・・。
   しかし、今オーブに進攻する意味が分かっているのか。
   それも単機で。
   いったい何を考えている。
   誰が、何のために・・・。

一気に思考を巡らせたアスランの目に西日が射し込み、思わず目を細めた。
レセプション会場は、傾きかけた西日に照らされて、柔らかな輝きを放っていた。

――必ず止める。

アスランはゆっくりと瞳を閉じ、真直ぐに海上を見据えた。




←Back  Next→  

Chapter 1  Top