「イザーク、あれ。」
ディアッカが顎で示したその先に、
イザークは駆けて行くアスランを見た。
「いい顔してやがる。」
イザークは皮肉を言った。
アスランは戦場で見せた表情をしていた。
それはイザークとディアッカには見慣れた、
そしてこの場には不釣合いな顔であった。
「何かあったな。動いとく?」
ディアッカはイザークを見遣る。
「その必要は無いだろ。
ここには各国の代表や、政界・財界の要人が集まっている。
こんな場所でテロを起こす馬鹿はいるまい。」
テラスの階下では人々が笑い、舌鼓を打っている。
そののん気さがイザークを苛立たせる。
何も知らない、何もしない、命懸けとは無縁世界。
そんな奴が世界には多すぎる。
「だよな、一発で世界を敵に回すことになる。」
ディアッカは気だるそうに頬杖をついた。
ディアッカもイザーク同様、階下の人々に顔を向けていた。
ただ、目に映していただけだった。
苛立つ代りに気持ちが冷めていく。
「万が一その馬鹿がいても、アスランが動くなら問題ない。
戦艦が何隻来ようと返り討ちだ。」
「まーな。そういう意味じゃ、安全だけど。
でも・・・、あいつの顔。」
ディアッカは唇に手をあてる。
イザークはグラスのワインを一気に煽ると、
テーブルを叩くようにグラスを置いた。
アスランは屋上の移送機に搭乗するとすぐにインカムをつけた。
「状況を説明してください。」
オペレーターの口調が、その異常さと焦りを表していた。
「オーブ領海付近に所属不明のMSが接近中です。
数は1。ライブラリー照合できません。」
アスランは眉をひそめ、インカムに手をあてる。
「オーブ領海線到達予定時刻は。」
「最速で15分です。
ただしMSの進行速度・方向が大幅に変化を繰り返していますので、
正確な時刻は割り出せません。」
「了解した。紅の発進準備を。到着次第、即、発進する。」
――何処の国だ、いやテロリスト・・・。
しかし、今オーブに進攻する意味が分かっているのか。
それも単機で。
いったい何を考えている。
誰が、何のために・・・。
一気に思考を巡らせたアスランの目に西日が射し込み、思わず目を細めた。
レセプション会場は、傾きかけた西日に照らされて、柔らかな輝きを放っていた。
――必ず止める。
アスランはゆっくりと瞳を閉じ、真直ぐに海上を見据えた。