シンは空を見上げていた。
吸い込まれそうな空に胸が詰まる。
空のあまりの青さだけではない、
シオンの咲く季節だからだ。
マユが好きだった花が咲く、
マユがいない、
この今に。
シンはレセプションの前に慰霊碑を訪ねていた。
戦火の爪あとが色濃く残っていたその地は一変していた。
そこには多種多様な草花が植えられ、
自由に葉を伸ばし花を咲かせ実を結んでいた。
「オーブ・・・?」
シンはつぶやいた。
様々な国籍、人種、宗教、ナチュラルとコーディネーターが共生する国オーブを、
そのままに表しているように見えたのだ。
慰霊碑の横に大きな本をモチーフとしたオブジェがあり、
そこには犠牲となった市民の写真に花が添えられて映し出されていた。
「マユ・アスカ・・・。シオン。」
急に満たされたシオンの香に、
はっと振り返った。
「マユ・・・?」
遠くで薄紫色のシオンの花が揺れている。
オブジェにはこう刻まれていた。
『この地に花を絶やさぬことを誓う。
花の香が祈りと共に あなたに届きますように』
カガリが刻んだ言葉だった。
穏やかに微笑んだシンに、風が吹き抜ける。
「マユ。」
シンは空を見上げた。
「いたー!シーンー!!」
ルナの飛ぶような声が響いて、シンは我に返った。
「もー、勝手に外で休んでるんだからっ。」
ルナは悪戯っぽくシンの顔を覗き込む。
「なんだか、シオンの花のにおいがした気がして。」
そう言って、シンはあまりに蒼い常夏の空を見上げた。
その視線の先に描かれた面影を読み取って、
ルナは視線を伏せた。
「マユちゃんのこと・・・。」
「うん、思い出してた。」
続くシンの言葉はルナを驚かせる。
「 今朝、慰霊碑へ行ってきたんだ、ひとりで。」
「え?」
しかし、ルナの不安の色は、
シンの表情で微笑みに変わる。
「すごい花がいっぱいでさ。
めちゃくちゃなんだけど。
なんか、とっても綺麗なんだ。後で一緒に・・・」
ちゅ。
「なっ!」
「惚れ直したっ。」
突然頬に落ちたルナのキスに面食らったシンは
照れ隠しに拗ねるより先にルナの真っ直ぐな瞳に捉えられた。
「後で連れてって、約束。」
「うん。」
ルナはシンの腕に手を添えた。
と、その時携帯に連絡が入った。
『仕事しろ』