1-21 記憶の中の声の主




「ここでもう1機のMSが加わる。」
アスランは映像を再生した。
アスランの瞳に影が射す。
――これ・・・か?
カガリの中で、
中庭で見せたアスランの表情が浮かんだ。



「ガスパル共和国からの報告によると、
2機のMSはその後他に危害を加えることなく消息を絶ったとのことだ。」
その子どもだましのような報告に憤りを感じたが、
それ以上にイザークを苛立たせたのは、
「貴様っ!何だこの体たらくはっ!」
アスランの追跡だった。
映像で見る限り、
先のケイとの戦闘に比べアスランの動きは格段に鈍くなっている。
むしろ、
「みすみす逃がしたと思われても仕方ない。」
それ程、本来のアスランでは考え難いものだった。
アスランは自分の否を認めるに留まり、
その理由は口にしなかった。
だがカガリだけがそこに気付いていた。

「准将は、
なんで調子がおかしくなったんだ?」

――かなわないな。
アスランは小さな溜息をもらすと、
重いはずの口を平然と開いた。

「俺は、この声にも聞き覚えがある。
パトリック・ザラの声だ。」

室内は絶句した。


アスランは表情を変えず感情をそぎ落とした声で続ける。
報告を。
中庭で見せたアスランの表情、
突然の問い、
その理由がアスランの口から報告されていく・・・。
それはカガリの胸を刺し、
カガリの中で確かに何かが萌芽していった。

「同様に、このパイロットとパトリック・ザラの音声を比較すると・・・。」
父を父と呼ばない。
「照応率は83.989%。
ただし、比較したパトリック・ザラの音声は議長を務めていた際のもので、
パイロットの音声はそれよりも年齢が低いと推定される。
仮にパトリック・ザラの音声を5歳下げたシュミレーションと比較すると・・・。」
グラフに新たな線が加わる。
「照応率は高まり、さらに5大年齢を下げたシュミレーションでは・・・。」
さらに新たな線が加わる 。
まるで、望まぬ真実に寄り添うように。
「90%を越える。」
ディアッカが確認するように問う。
「血縁者ってこと?」
アスランはPCを操作し、映像を戻しながら答える。
「血縁者は全て他界している。
このパイロットがパトリックと関係するのかどうかは俺の推測の域を出ていない。
根拠となるデータはシュミレーションだし、
偶然と考えた方が自然だ。
ただ、似ていると感じた。」

――声だけじゃない。
   話し方、言葉。
   いやもっと、本質的な。

思考が進む程、主観的で根拠の無い憶測であるはずなのに、
確信めいたものが固まっていく。
彼はパトリックだとアスランに呼びかける。
まるで、体が呼応するように。



カガリはアスランを横目に、イザークとディアッカに国としての態度を示した。
「ガスパル共和国へはさらなる詳しい報告と再調査の要請をした。
有事にはいつでも出られる体勢を整えている。
おそらく今夜中准将がここで待機している。
そのつもりなんだろ?」
「あぁ。」
カガリの声で重力を増していく思考の加速度が緩む。



「もうひとつ、確認したいことがある。」
アスランはイザークとディアッカの方へ視線を移した。
「あの、ビームライフルのことだろ?」
ディアッカは眉をひそめたまま小さな溜息を漏らした。
「予想が的中したらマズイから、
実物見せてくんない?
確認したい。」
軽い口調とは裏腹に、ディアッカの頭にはある仮説が出来上がっていた。

もしそれが現実となるならば、
プラントから滴り落ちる世界の影を示すことになる。




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