会場の混雑は和らいだとはいえ、
キラとラクスの周囲の賑わいは衰えなかった。
それは2人の婚儀にたいする
世界の祝福の大きさを表しているようだった。
「ユジュ様、いくぞっ。」
「はいっ。」
心なしか凛々しい声で返事をしたユジュは
カガリの手をきゅっと握りなおした。
経験をしたことが無い程、
大きな鼓動が小さな胸を打つ。
――大丈夫、大丈夫。
カガリの声が聞こえた気がして、ユジュは横目でカガリを見た。
口元には親しみのこもった笑みを湛え、
前を見つめる瞳には強い意志を感じる。
――なんとあたたかく凛々しいお方だろう。
ユジュの表情に自然と微笑みが浮かび、
陶器のような白い肌に薔薇色が射した。
「キラ様、ラクス様、ご婚約おめでとうございます。」
ユジュはみやびやかにバルディカ式の挨拶を行った。
キラとラクスはユジュの立ち振る舞いに目を細め、
同じ目線へと姿勢を下げた。
「これはお祝いの品です。お納め下さい。」
「ありがとうございます。」
2人の笑顔に、ユジュは胸のあたりが熱くなるのを感じ、
思わず手をあてた。
誰かのために何かをする喜び、
それを初めて自覚したのである。
ユジュが贈ったのは伝統文化である詩だった。
「ステキな詩ですわね。」
ラクスのたおやかさと、
「これはユジュ様自らお詠みになられたのですか?」
キラの優しさに触れ、
「はい。お2人の永久の幸せを願い、詠じました。」
ユジュは人と交わる喜びを感じていた。
バルティカの閉塞感から解き放たれて。
「キラ。」
ラクスはキラへ向けて微笑み、
「うん。」
キラは引き受けて頷く。
それだけで分かり合える、
2人の絆の深さを物語っている。
「わたくしたちもユジュ様へ贈り物をしたいと思います。」
ピアノの旋律が春風のように駆け抜けていく。
演奏しているのは、キラだ。
そこにラクスの薄桃色の声が重なる。
風に花びらが舞う・・・。
花が風を呼ぶように、
風が花びらを包むように、
花びらが風にのるように・・・。
ピアノの音色は歌に寄り添い、
詩は旋律にのってどこまでも響き渡る。
ユジュはカガリの手に触れた。
カガリは背中からユジュを抱きしめた。
ユジュは幸せの甘さと、それを分かち合う喜びを知った。