「ユジュ様、
隠れていてはラクス様にお祝いをお伝えすることができませんよ。
そろそろお開きの時間です。
丁度混雑も和らいできました。
さっ、今の内に。」
ユジュと呼ばれた少女は涙を目に溜めている。
「ラクス様は受け取るだろうか。」
「きっとお喜びになると思います。
私もお側におりますから。」
ユジュはゆっくりと花が綻ぶように
笑顔で頷いた。
この幼子が、バルティカ帝国皇帝ユジュであった。
「ユジュ様ー!!
お久しぶりです、ユジュ様!」
カガリは息を弾ませながらユジュの手をとった。
ユジュは驚いたように目を見開き、そっと青年に耳打ちをする。
青年は笑顔でユジュに口添えをする。
ユジュは紅潮し、大きな瞳からは涙が今にも落ちそうだ。
カガリはアスランと顔を見合わせた後、
ユジュを抱き寄せた。
「大丈夫、大丈夫。」
「ごめんなさぃ・・・。」
ユジュは消え入るようなか細い声とともに涙をこぼした。
青年がカガリとアスランに事情を説明する。
と、カガリはふきだした。
「良いんだ、ユジュ様。
私は幼い頃から、男に負けないくらい強くありたいと思ってきた。
ユジュ様にそう思われて、むしろ光栄なくらいだ。」
「そうか。予はカガリは強いお方に思う。」
「ありがとうございます。」
カガリはユジュを抱き上げ、
ユジュは花のような笑顔を見せた。
「ユジュ様、お初にお目にかかります。
アスラン・ザラと申します。」
ユジュはバルティカの伝統的な挨拶をした。
ゆったりとした立ち振る舞いや、年齢には不釣合いな程深みのある瞳には、
皇帝としての威厳が宿りつつあることを示していた。
しばしば見せるユジュの早熟さは、
同時に儚さを薫らせる。
「はじめまして。」
アスランは隣の青年へ目を向ける。
「申し遅れました。私はフィーヲ・オルブライトです。
ユジュ様の近衛として御仕えしております。」
「久しぶりだな、フィーヲ殿。」
カガリとアスランはフィーヲと握手を交わした。
「カガリ様。
出会い頭に大変失礼かとは思いますが、折り入ってお願いがございます。」
と、フィーヲはカガリに事情を話し始めた。
カガリは請け負った印に笑顔を見せ、
膝をつきユジュの肩に手を乗せた。
「ラクスはユジュ様とお話をしたいと願っているはずた。
それに、きっと喜ぶと思うぞ。」
ユジュの表情はゆっくりと明るくなり、
「うんっ。」
と、無邪気に笑った。
――ユジュ様はこの様に笑うのだな。
その笑顔はオーブの子どもたちと同じ、
子どもだけが持つ無垢な希望の光を伴う笑顔だった。
国のために引き受けなければならなかった地位と役目、
その重圧。
しかし、それを背負うにはユジュの年齢は若すぎる。
カガリはユジュと同年の頃に思いを馳せた。
父の手に護られたあたたかな自由の中で、
友と一緒に飛び回ったあの頃。
声が枯れるまで泣いて、
取っ組み合いの喧嘩をして、
お腹を抱えて笑いあい、
足が棒になるまで駆け回った。
毎夜明日を楽しみにベットに入り、
星を数えては眠りに落ちた。
カガリはユジュの手を愛しむように包んだ。
ユジュはあまりのあたたかさに頬を染め、
涙が落ちそうな目を見開いた。
「さ、ラクスに会いに行こう。」
2人は手を繋ぎ、まるで姉妹のように寄り添った。