1-14 縛めの約束




「そろそろ戻ろう。」
アスランはさっとジャケットに腕をと通し、立ち上がった。
「そうだな。
キラたち、会いたがってたぞ、おまえに。」
カガリはハイヒールに足を滑り込ませると、
ラフにブランケットを外した。
「そうか。俺も久しぶりに話がしたい。」

アスランはカガリの前に手を差し出した。
「よろしければ、お相手を。」
少しかしこまったアスランの顔には、
いつもの穏やかさが戻っていた。
「一人出歩けるっ。」
カガリはぷいっと視線を外したが、
「あっ・・・」
と視線を落とし、アスランの手と自分の手を見つめた。

「やっぱり・・・。」

カガリはアスランと手を重ねた。
頬が熱くなるのを感じたカガリは口を結び、
何かを押さえ込むように目を伏せた。



カガリは、意思を真直ぐに貫く琥珀色の瞳の印象が強い。
しかし伏目になると、
輝くような金色の髪、
艶やかな肌、
しなやかな四肢に映える女性的な曲線といった、
瞳の強さで隠された魅力が香りたつ。


カガリは再び琥珀色の瞳をアスランに向け、
立ち上がった。


「綺麗だ。」
「からかうな。」
「真面目に言っている。」
「そっちの方がたちが悪いぞっ。」
「そうか。」


綺麗だと、どういう意味で言ったのか
カガリには分かっていた。
からかっている訳でも、
口説いている訳でもない。
言葉のままの意味、感情。
その先へ目を向けず、
踏み込まない、
暗黙の約束。

言葉を交わすことも、
指きりもしていないこの約束は、
思いの分だけ胸に沈み、
縛める。
まるで錨のように。

頑なに、その領域に触れまいと距離を置くことは、
お互いを思いやり寄り添うことと同じだった。
ただ、側にいられないだけで。



中庭から会場へと続くポーチで、
カガリとアスランは2つの影を見た。
まだあどけなさが残る青年の後ろに、小さな少女が隠れている。
青年は前に出るように促すが、
少女は青年の腕を抱きしめ放さない。
困った顔をして青年は立膝になり、少女に語りかける。

その影の主が分かると、カガリは駆け出した。




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