「そろそろ戻ろう。」
アスランはさっとジャケットに腕をと通し、立ち上がった。
「そうだな。
キラたち、会いたがってたぞ、おまえに。」
カガリはハイヒールに足を滑り込ませると、
ラフにブランケットを外した。
「そうか。俺も久しぶりに話がしたい。」
アスランはカガリの前に手を差し出した。
「よろしければ、お相手を。」
少しかしこまったアスランの顔には、
いつもの穏やかさが戻っていた。
「一人出歩けるっ。」
カガリはぷいっと視線を外したが、
「あっ・・・」
と視線を落とし、アスランの手と自分の手を見つめた。
「やっぱり・・・。」
カガリはアスランと手を重ねた。
頬が熱くなるのを感じたカガリは口を結び、
何かを押さえ込むように目を伏せた。
カガリは、意思を真直ぐに貫く琥珀色の瞳の印象が強い。
しかし伏目になると、
輝くような金色の髪、
艶やかな肌、
しなやかな四肢に映える女性的な曲線といった、
瞳の強さで隠された魅力が香りたつ。
カガリは再び琥珀色の瞳をアスランに向け、
立ち上がった。
「綺麗だ。」
「からかうな。」
「真面目に言っている。」
「そっちの方がたちが悪いぞっ。」
「そうか。」
綺麗だと、どういう意味で言ったのか
カガリには分かっていた。
からかっている訳でも、
口説いている訳でもない。
言葉のままの意味、感情。
その先へ目を向けず、
踏み込まない、
暗黙の約束。
言葉を交わすことも、
指きりもしていないこの約束は、
思いの分だけ胸に沈み、
縛める。
まるで錨のように。
頑なに、その領域に触れまいと距離を置くことは、
お互いを思いやり寄り添うことと同じだった。
ただ、側にいられないだけで。
中庭から会場へと続くポーチで、
カガリとアスランは2つの影を見た。
まだあどけなさが残る青年の後ろに、小さな少女が隠れている。
青年は前に出るように促すが、
少女は青年の腕を抱きしめ放さない。
困った顔をして青年は立膝になり、少女に語りかける。
その影の主が分かると、カガリは駆け出した。