1-11 記憶の中のもうひとつの声




アスランはすぐに呼吸を戻し、
新たに現れたグレーのMSに警告した。

「私はオーブ連合首長国軍アスラン・ザラだ。
このMSはオーブ領海へ武装して侵入しようとした。
そのためこちらは、国際規約に則り身柄と機体を拘束し取り調べを行う権利がある。」

「違うな。」

アスランは痺れが波紋のように全身に広がるのを感じた。

「第一に、この機体はオーブ領海線を踏み越えていない。
そのため取り調べにはこちらの同意が必要であろう。
第二に、この機体に乗っているのは制限行為能力者である幼子である。
幼子が誤って機体に乗り込み、誤って操作しただけのこと。」

低い声でじわじわと丸め込む口調をアスランは遮る。

「しかし、現にケイは発砲をし攻撃を加えた。
且つ、ケイの目的はオーブ領内への進入であることは自白している。従って・・・」

さらに、記憶の中の声は現実の声となり、アスランに降り注ぐ。
厳格な口調、そのままに。

「ケイが発砲したとしても、先程も言ったように誤って発砲してしまっただけだ。
制限行為能力者の過ちは減刑もしくは無罪放免となる余地がある。
しかもこの様な幼子であればなおさらだ。」

アスランは目の前で塗り固められていく論理を打ち砕こうとする。
任務であるからというよりむしろ、
過去の記憶に拠る、
それは無意識から。

「仮にケイに免責事由があるとするならば、責任は監督者である貴方に帰属するはずであり、
故に責任そのものが消滅する訳ではない。
さらにケイが減刑もしくは無罪放免となる確固たる年齢であることをこちらに示していただきたい。」

「アスラン――。」

――まただっ・・・。
アスランは遺伝子が反応するような痺れに、懸命に耐える。

グレーのMSは続ける。
「ケイが発砲したとしても、それはオーブ領海内ではない。
こうして何の被害も出ていない現状で、
仮に私が責任を負わなければならないとしても、それはオーブに対してではあるまい。
しかし、こちらの監督不行き届きによるこの事態に関する謝罪の意は表したい。
以後、この子の監督には重々注意することを約束する。では。」

グレーの機体はガスパル共和国へきびすを返し、
ケイもそれに追随した。
「待てっ、取調べを受けられない理由があるのかっ。」
「アスラン――」

――俺の名を呼ぶな・・・その声で・・・。

アスランの痺れは、その声の度に大きくうねる。

「良いのか、今度はお前が侵入者だ。」
「そんな筈は無い、ガスパル共和国から許可が下らない訳が・・・。」
 と、その時モニターにガスパル共和国からの通知が出る。
「不許可・・・だと。そんなっ。」
通知には領海への立ち入りの不許可と、
その代替として調査結果の公表の確約が記されていた。
「馬鹿なっ!」
アスランはモニターを叩いた。
「待てっ!話をっ!!」
2機のMSはさらに加速し、やがてその反応は消失した。




記憶の中の声と現実の声が重なり合った
2つの声が アスランの名を呼ぶ。


紅は崩れ落ちるように海中へ沈んだ。




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