1-10 記憶の中の声




「キラ・・・。」

アスランの思考が口をついて出る。
「キラを知ってるの? もしかして、アスラン?」
アスランは混乱した思考をしとつひとつ正すように、
ゆっくりと呼びかけた。
「・・・そうだ。 失礼だが、君のことを思い出せない。
君の名前を教えてくれないか。」
心なしか、口調が穏やかになる。

記憶の中の声・・・、
キラの声・・・。
黒のMSから発せられる声は、
幼少の頃のキラの声に酷似していた。

「僕はケイって言うの。
はじめまして。
初めて会うけどアスランのことは知ってるんだ。」
ケイの口調は何処か得意そうで、
アスランは自分の表情が緩んでいくのを感じた。
「ケイ、モニターは付けられるか?ちゃんと話がしたい。」
「待ってね。
えーっと・・・。
わかんないや。
僕、これに乗るの初めてで・・・。」
アスランの脳裏に次々に疑問が浮かんだが、
状況の確認を優先させた。
「中央になる大きな円より左側を見て。そしたら・・・。」

アスランはモニターの付け方の説明を始めた。
手順、スイッチの場所も色さえも、全てフリーダムと一致していた。
間も無く、画面にヘルメットを被った小さな少年が現れた。
「わっ、できた!」
ケイは無邪気に喜んでいる。
「ケイ、よく聞け。ここはオーブの領海なんだ。だから・・・。」
「領海って何?」
アスランは困ったように笑った。
「領海っていうのはオーブの海という意味だ。
ここはオーブの場所なんだよ。
例えば君の部屋に知らない人が武器を持って入ってきたら、
驚いたり怖い思いをするだろう?
それと同じで、今、いきなり君が海から飛んできて、
オーブは驚いている。
だから、俺が見に来たんだ。
わかるか?。」

ケイは考える仕草をした。
顎に当てた手は、ヘルメットのせいかとても小さく見える。
「じゃぁ、僕は来ちゃいけなかったんだ・・・。」
ケイはうつむいた。

――聞かなければならないことが多すぎる。
   それに聞きたいこともある、俺個人として。
   君は一体・・・。

「ケイ、君は何処から来たんだ?」
「僕はずっとメンデルにいたの。
でもキラに会いに来たんだ。」
アスランはケイの言葉をひとつひとつから浮かぶ疑問を
表情に表さずに続ける。
「どうしてキラに会いたいんだ?
キラとは友達なのか?」
「キラに会いに来たんだ。
だって、僕はキラのことを知ってるのに、
キラは僕のこと知らないから。
だから見てほしいんだ、
僕のこと。
僕を。
だってキラは・・・。
僕・・・だからっ。」

語尾が感情的に荒れるのを見て、
アスランはゆっくりと呼びかけた。
「わかった。だからキラに会いたかったんだな。」
「うん。」
その声には心なしか涙も混じっている。
しかし、アスランの穏やかな声に落ち着きを取り戻したようだった。
そんなところも、キラに似ていると
アスランは心の片隅で思っていた。

「誰かに言われて来たのか?」
「違うよ。
僕がキラに会いたくなったから、これに乗って来たんだよ。」
「君は何処へ帰るんだ?」
「僕はね・・・。」

「答える必要は無い、ケイ。」

アスランは頭を打たれたような痺れを感じ、
視界が大きく揺れた。

「アスラン。・・・か。」

記憶の中のもうひとつの声・・・。
アスランは姿勢が保てなくなり、
沈む頭を荒々しく手で押さえた。
シャツの前で、ハウメアの護り石が揺れている。
アスランは石を押さえつけるように、右手を胸元に当てた。

呼吸が乱れる、
鼓動が波打つ、
思考が混濁する・・・。

胸元に当てた手は、石を握り締めた。
強く。




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