9-29 天使の悪戯 番外編
アスランはカガリの部屋を出ると、盛大なため息を落とした。
鼓動はうるさい程に胸を打ち、頬に上った熱は朝の冷涼な空気に冷めることは無かった。
無造作に頬を手の甲で擦った時初めて、
カガリの部屋の前に控えていたSP等が驚きの表情を浮かべていることに気付き、
アスランは慌てて表情を改めると足早にその場を辞した。――あぁ、もう・・・。
気持ちが言葉にならなかった。
溢れる感情を全部処理することなんて、不可能なんだと思う。
それ程アスランの胸を様々な想いが満たしていた。――俺が・・・、抱きしめたんだよな・・・。
見ていた夢が現実であったのなら、きっとそうなのだろう。
なんて事をしてしまったのだろう、そう思う一方で
素直に喜びを感じている自分がいた。
もしも夢が現実だったのなら、
囁くように呼ばれた名前も、
体温を分け合うように寄り添ったことも、
目覚めた時にくれた微笑みも、
一緒に告げた“おはよう”の言葉も、
みんな、本当になるのだから。――でも・・・、嫌な思いをさせた・・・だろうか?
2人して驚いた声を上げて体を離して、
あの時見たカガリの表情は不快感を示したものではなく
ただ恥ずかしさをいっぱいに抱きしめるように小さくなっていて。
そんな姿さえかわいいと思ってしまう自分は重症だと思う。
手を伸ばして抱きしめてしまいたくなる衝動を、必死で抑え込んだのだから。カガリであれば、嫌だったら“嫌だ”とはっきり言ってくれる、
そう言うことを言い合える信頼関係は保たれている、
その筈だ・・・。だから、
――少なくとも・・・嫌な思いはさせなかった・・・と思う。
自信無さげにそんな結論をつけた。
そうしなければ、膨れ上がった心が潰れてしまいそうだった。
アスランは自室に戻ると、今更ながら喉が渇いていたことに気付き
備え付けの冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出して一気に煽った。
清涼な一筋が体内を貫いていく感覚に、冷静さを取り戻したかった。と、その時携帯用端末が着信を告げ、
ただそれだけでむせてしまった自分に情けなさを感じつつ
表示を見ればそこにあったのは悪戯の仕掛け人の名前だった。「はい。」
不機嫌さを隠さずに声を発すれば、
向こうからは笑い声の交じった反応が返ってきた。“アスラン、お前も隅に置けないなぁ〜。”
アスランはため息をついてうなだれた。
「ムゥさん・・・。」
“大丈夫だって、カガリも幸せそうだったぜ〜、
あの写真なんか最高だしっ!“「写真・・・?何のことですか?」
アスランはそう聞き返して嫌な予感に体が冷たくなるのを感じた。
そもそも、どうやってムゥは悪戯を仕掛けたと言うのだろう。
ウィルはカガリとアスランと共に眠っていた筈で、
気が付けばウィルはアスランの携帯用端末でムゥとコンタクトを取っていた。――ムゥさんが俺の携帯に通信を入れて、偶然ウィルが取ったのか・・・?
改めて考え出せば不可解なことが多すぎる、
そんなことをアスランが思考していた時に、
ムゥから不可思議な言葉を返された。「そうそう、ウィルが待ち受けに設定してくれてる筈だから、
これでいつでも見れるぜ〜。」――一体何を言っているんだ・・・?
アスランは徐に携帯用端末の待ち受け画面を確認し、
声さえ上げられぬ程驚き、赤面した。
なぜならばそこに映っていたのは、
恋人のように抱きしめ合う自分と愛しい人だったから。“ナイスショットだろ〜。
ウィルが撮ったんだぜ、ちゃんと褒めてやったか?““落ち込んだ時はさ、その写真見て元気だせよっ、なっ!”
もはや恥ずかしさで思考停止したアスランにムゥの声は届かない。
気持ちは写真から目を逸らしたいと、確かにそう思うのに
瞳は幸せそうな微笑みを浮かべたカガリを離さない。――か、かわいすぎる・・・。
無意識に緩みそうになった表情は、続いたムゥの言葉で凍結した。
“そうそう、その写真、カガリにも送っといたから。
俺って気がきくぅ〜♪“数秒後、アスランの絶叫が響いたのは言うまでも無い。
アスランが通信を切った後、待ち受け画面は即刻変更されたが
”例の写真”は厳重なプロテクトを掛けられて保存されたとか。
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