8-21 Garden wedding
真白なテーブルクロスに飾られた花々の鮮やかな色彩。
柔らかな曲線を描く湯気に、
優しくとろけるクリームスープ。
こんもりと盛られた焼きたてのパンに、
瑞々しいサラダとフルーツ。
香ばしく焼きあがったベーコンにふわふわのスクランブルエッグ。
目を覚ますようなオレンジジュースに新鮮なミルク、
光を透かすミネラルウォーター。
そして、
「はい、苺ジャム。」
「んっ。キラ、ありがとな。」
「おかわりはいかがですか。」
「「おかわりーっ!!」」
「本当に良く食べるな。」
「アスランももっと食べなよ。」
「そうだぞ、食が細すぎるぞ。」
「・・・。」
「あらあら。」
「あ。」
「くすくす。」
「「??」」
「キラ、パンくずが。」
「えっ。」
「こちらですわ。」
「ありがとう、ラクス。」
「カガリも。」
「ふぇっ。」
「反対、左側。」
「ありがと・・・な。」
大切な人たちとあたたかな料理を囲んで笑いあうこと。
その当たり前の光景が持っている素朴で尊い光に
胸が詰まる。
幸せが胸を締め付けるのではない、
幸せを胸に刻もうとするから、胸が痛むんだ。
静かに瞳を閉じたカガリは泣き出したくなる衝動を飲み込んで、
もう一つの湧き上がる感情のまま
晴れ渡った笑顔を浮かべて呟いた。
「私、幸せだ。」
君の庭で朝食を。
そんな澄んだ水のように流れる時に
アスランは包み込むような眼差しを静かに向けていた。
陽が昇り沈むように
繰り返される日常に、
ハチミツ色の優しい煌きを見る。
「さぁ、食後の散歩へ行こうっ。」
今、この時は
きっと誰もが幸せなのだろう。
「そうだな。」
だから、
キラとラクスは微笑みを重ねるように頷いた。
先に席を立ったカガリと、
"一緒に行こう"と誘う眼差しをキラとラクスに向けるアスラン。
その2人の前に、
キラとラクスは手を繋いで歩み出た。
「2人に伝えたいことがあるんだ。」
キラの言葉に寄り添うように
「聴き届けていただけないでしょうか。」
ラクスの言葉が重なる。
アスランとカガリは視線を重ねると
キラとラクスに頷いた。
2人の受容に応えるように
キラとラクスは瞳を細めて
繋いだ手を握りなおした。
「僕がね、
指輪を外したんだ。」
キラの告白にカガリは息を呑み
アスランは当時の無機質な病室を瞳に映し出しては
薄く瞼を閉じた。
そのアスランの仕草に、
カガリは、モニター越しに一緒に創った指輪は
その時のものであったことを知った。
「ですが。」
そう言って、
ラクスはキラと繋いだ掌を開いて
愛おしそうに微笑んだ。
キラとラクスの掌の上には、
アスランとカガリが創った1組の指輪が
陽の光に輝いていた。
「お2人の願いが、
わたくしはとても嬉しく思いました。」
ラクスの想いを引き受けるように
キラが頷いた。
「2人が、繋いでくれたんだ、
僕たちを。」
キラとラクスは微笑みを重ねて、
そしてキラが告げた言葉に
ラクスの想いが聴こえた。
「ありがとう。」
そしてラクスは
繊細な手付きでアスランとカガリの手を取った。
「お2人に、お願いがございます。」
"お願い"という言葉と、ラクスの行為が結びつかず
それでもアスランとカガリは静かに受け入れる。
その2人の思いやりの形に
ラクスは心の中でもう一度感謝の言葉を紡いて、
アスランの掌の上にカガリの掌をやわらかに重ね、
その上に1組の指輪を置いた。
そして、アスランとカガリは同時に
キラとラクスが何を成そうとしているのか気付き、
視線を重ねて幸福な微笑みを浮かべた。
「僕は、
ラクスを永久に愛することを
誓います。
この手を離さないことを、
誓います。」
キラは誓いの言葉と共に、
ラクスの左手を取った。
自己と閉じ、
愛すること止め、
ラクスを裏切り
命を絶とうとしても、
それでもキラを信じぬいたラクスの手は
儚げなほど細く、
そして愛おしい。
キラは想いを込めて
ラクスの薬指に指輪を通した。
そして今度は、
ラクスの細い手がキラのそれを取った。
「わたくしは、
永久にキラを愛することを
誓います。
いつまでも、この手を繋ぎ続けることを
誓います。」
いつでも優しく包みこんでくれる掌は、
戦火に傷つき
宿命に凍てつき、
そして今ここにある。
愛して止まないこの手に
ラクスは想いを込めて
指輪を通した。
出会えた奇跡からずっと
寄り添いあってきたキラとラクスの愛が
ひとつになる。
アスランとカガリの願いが
キラとラクスの誓いにかわる。
ここから、
永久が始まる。
幸せに色があるのだとすれば、
きっとそれは
「おめでとう、
キラっ、ラクスっ。」
光のような色彩なのであろう。
「おめでとう。」
全てを包み込むような。
アスランとカガリから贈られた祝福が
賛歌のように胸に響いて
溢れる喜びにくちづけするように
キラとラクスは誓いのキスをした。
「ありがとう。」
君の庭で挙げられた小さな結婚式に、
あの時のような世界からの祝福はなかった。
それでも、キラとラクスは
幸せの色彩に確かに包まれていた。
世界へ祝福を贈るような。