8-14 勇気を



アスランの降り注ぐ言葉が染み入って
カガリの心を震わせた。
アスランの表情も瞳も、
涙で揺らぐ。
それでも確かに眼差しの熱を感じる。
絡められた指先から
真摯な意志を感じ、
堪えきれない嗚咽と鼓膜を叩くような鼓動に
少し掠れた声が斑んでも、
確かに言葉が聴こえた。



『カガリに会えて良かったと、今でも思う。』

――4年前、
   あの時私も同じことを想っていた。
   "アスランに出会えて、良かった"、と。

――でも、私は知らなかったんだ。

『だから俺は、
カガリが生まれてきてくれたことに感謝している。』

――アスランは全部知っているんだろう?

『どんな理由で生まれてきても、君は君だ。』

――なのにどうして、
   眼差しを向けてくれるんだ・・・

『だから、望んでいい。』

――どうしてここにいてくれるんだ・・・

『今も、これからも。』

――どうして、護ろうとするんだ・・・

『望めば叶う、
そんな世界を、俺が創るから。』

――それは、私の・・・

その先の言葉を知りカガリは瞳を見開いた。
無意識に、
繋がれた手を握り返していた。

『俺は、
同じ夢を描いてカガリと共に生きていきたい。』

――どうして伝えてくれるんだ、
   夢を

『それが俺の願いだ。』

――願いを

『だから。
俺はカガリを望む。』

――望みを

『それが、
俺の真実だから。』

――真実を

――そこで
   共にあることを・・・





アスランの言葉に呼応して
胸の奥のに燈る光を見た。
その小さな火が
瞬くように揺れる。

――あぁ、そうか・・・

そうして気付いた、

――お父様が何も言ってくれない筈だ。

真実はもうこの胸にあることを。

気付いたならば向き合わなければならない、
向き合うことから逃げない、
痛みにも弱さにも屈する事無く、
迷っても立ち止まっても誠実でありたい、
大切にしたい。
真実が
縛め続けた想いから始まっても。
それが全てだとしても。




――真実を、真実とする
   勇気がほしい。

カガリは一つ瞬きをした、

――アスラン、
   勇気をくれないか。

その拍子に零れたあたたかな涙が頬を伝う、

――私に、
   勇気をくれないか。

その涙を拭おうとアスランの手がカガリの頬に触れる、

――真実を真実と
   信じる勇気を

その前に掌は頬を掠めて
金糸が舞った空を掴んだ。

「今・・・
ほんの少しだけ・・・。」

縛めの約束を越えて、
カガリは震える身体そのままに
アスランの胸に額をあてた。

「・・・少しだけで・・・
いい・・・から・・・。」

魂を求めるように、
小さな手がアスランのシャツに触れた。
細い指で掠めるようにそっと。

「・・・今・・・だけ・・・。」

頬を寄せるように顔を押し当てて、
感じるのはアスランの鼓動。
世界で一番、好きな音。

「・・・傍に・・・いて」

「・・・ここに・・・いて・・・。」

カガリの言葉が結ばれるよりも先に伝わった想いに、
アスランはカガリを抱きしめた。
想いの深さだけ、強く。
感じるアスランの腕の強さが
身体が軋むような痛みが
重なった鼓動が
その奥にある想いが
告げる。
ここに、共にあることを。
尊い光のような真実を。



潰された胸から熱いと息が漏れた。
それが、きっと引き金だった。
まるで子どものように、カガリは声をあげて泣いた。
深海のような静けさに包まれて、
愛する人のぬくもりを一心に感じながら。

 


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Chapter 8     blog(ヒトリゴト)
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