7-7 護りたいもの


 

シャクっ。
瑞々しい甘さと酸味が口いっぱいに広がって、
キラとカガリはきゅっと目を瞑ってリンゴを味わっていた。
ラクスは、
そんな2人をたおやかな微笑みを浮かべながら見守り、
アスランは、
双子はこうまで似るものなのかと思考を巡らせていた。

「あっ。そうだ、カガリ。」
「ん?何だ?」

キラはリンゴに伸ばしかけたフォークを止めて
カガリに問うた。

「カガリに罰ゲームを考えてほしいんだ。」

「罰ゲーム?
何の?
誰の?」

カガリは子どものように無垢な瞳でキラを見た。

「僕とラクスの。
賭けをしたんだけど、負けちゃって。」

カガリは、自分の罰ゲームであるにも関わらずにこにこしたキラに
ふっと吹き出して笑った。

「なんだよそれ。
私も賭けに混ざりたかったぞっ!」

頬を膨らませたカガリに、ラクスはくすくすと笑いながら応えた。

「ですが、ご本人が賭けに参加されるのは
難しいですわね。」

同意を求められるように視線を向けられたアスランは困ったように笑った。
全く話が読めないカガリはきょとんとした表情を浮かべ、

「どういうことだ?」

と、アスランに問うたがさらりと話の筋をかわされてしまう。

「キラは負けなのか?」

益々話がわからない、
そんな表情で眉間に皺を寄せ腕を組んだカガリに
キラが笑って応えた。

「えっとね、僕が2敗で
ラクスが1勝1敗、
アスランが1勝。」

そこへアスランが口を挿む。

「さっきの賭けは、全員引き分けだろう?」

ラクスが微笑みながら首を振った。

「いいえ、わたくしとキラは同じ答えでしたが、
アスランだけが正確でしたもの。
ですから、アスランの勝ちですわ。」

「だーかーらー!!
一体、何だよ〜!!」

カガリはフォークをぎゅっと握ったまま
じたばたと叫んだ。
ラクスは優和な微笑みを浮かべながら、

「アスランがカガリさんのことを
一番よく分かっていらっしゃった、
と、いうことですわ。」

さりげなく爆弾を落とし、
その含意と他意があるような言葉に切り替えしたのはアスランで、

「いや、答えは全員同じだったじゃないか。
だから・・・」

それをキラが悔しそうに遮った。

「今度は負けないからね、アスラン。
僕はカガリと双子なんだからっ。」

キラのお陰で話の筋がずれ出したことを確認すると、
念のためカガリが誤解しないようにと顔を向けた。

「賭けというのは、
気分を害するかもしれないが・・・。」

そこで、アスランの言葉はフリーズする。
カガリが耳まで真っ赤にしながら、
ゆらゆらと視線をリンゴに這わしていから。
真っ赤になったカガリの耳元で
ラクスが何か囁いている。

「ラクス、何をっ」

続く、“吹き込んだんだっ!”という言葉は
アスランを制するような最強の微笑みを浮かべるキラによって飲み込まれた。

「ね、
やっぱりアスランって、カガリのこと分かってるでしょ。」

キラの言葉はアスランにとっては追撃でしかなく、
この最強の2人には敵わないと、
分かりきった真実を再認識するのだった。
アスランは胸の内で盛大な溜息をつくと、
この話題を強制終了させるために話の筋を元に戻した。

「罰ゲームは何にするんだ。」
「そうだっ!罰ゲームだっ!」

どこかほっとした表情で顔を上げたカガリに
安堵したのはアスランも同じだった。

「じゃぁな・・・。」

カガリは顎に軽く握った掌をあて思案を巡らせて
ビシっと言い放った。

「キラは、3日間は絶対安静っ!」
「え〜っ!!!!」
「当然だろう?
昨日まで寝たきりみたいな状態だったって、
私知ってるんだからなっ!」

「それはカガリだって同じじゃないか・・・。」
少し拗ねたようにぶつぶつと文句を言うキラを宥めるのは
いつもラクスで、
「3日後からは、沢山遊びましょう。」
その光景が、先の戦争の前の孤児院でのそれを重なって
カガリはくすくすと笑った。

「キラとラクスって、いいよな。」

しかめっ面のキラと優しく微笑むラクスが
柔らかな視線をカガリへ向けた。

「やっぱり、2人といると幸せな気持ちになる。
それって、ステキだ。」

だからこそカガリは思う。
キラとラクスを護りたいと。
ただ、そこにいるだけで
誰かを幸せにしてしまう
2人だから。

だからこそアスランは思う、
今プラントに2人が必要であるのだと。

しかし、カガリとアスランは知っている、
キラとラクスの本当の望みは
静かで穏やかな日々を過ごすことであることを。
そう、
あの頃のように。

だからこそ、カガリとアスランは誓う、
必ず世界の平和を実現すると。
大切なキラとラクスの
優しい光のような幸せを
護りたいから。


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