5-25 絶望=苦悩−意味
――あれは、まだ僕がヘリオポリスにいた頃・・・。
サイやトールやミリィやフレイ・・・
みんなで取った講義・・・
『楽勝で単位とれるらしいぜっ!』
――そう言って、笑ったのはトールで、
フレイに付き合わされて、
講義に出たのはサイで・・・
――そう、あの時、
転寝してるフレイをミリィが肘でついて・・・
――大講義室の壇上の教授が言った言葉を、
僕は良く覚えてる。
『絶望イコール、苦悩マイナス意味』
――確か、旧世紀の
第二次世界大戦時に生きた、哲学者の言葉。
講義を聞いても
正直あんまり理解できなかったと思う。
それでも
なんで、こんなに鮮明に覚えているのか、
僕にはわからない。
――絶望=苦悩−意味
意味がゼロになれば、
苦悩と絶望はイコールで結ばれる。
――まだ、僕が学生だった頃・・・。
まだ、僕が
僕自身を人間だと思っていた頃。
そんなこと、当たり前すぎて
考えたこともなかった。
何も、知らなかった、
あの頃。
――僕も、サイやトールや、
ミリィやフレイと
同じだと思っていた
あの頃。
――僕は・・・。
寄せては返すような思考の波を打ち切り、
キラはゆっくりと瞳を閉じた。
思考する意味が、分からない。
これまでの思考の答えは、
それだったから。
――終わりが、きたのかな。
反動をつけなければ動かない程、
キラは腕はもはや自由に動かない。
それだけ、待ちわびた“終わり”がそこにあることを示す。
キラはゆらりと腕をゆらして、掌を自らの胸にあてた。
そこに在るはずの鼓動が、無い。
キラは、落下していくような安堵を覚え、
薄く微笑んだ。
しかし、硬く凍りついたその表情が緩むことは叶わず、
弛緩しきった四肢を引きずるようにゆっくりと逝く先へ動かそうとした。
その時、
キラは瞼に陽の光がさしたような気がして
鉛のように重い腕を上げ、
掌で目元にひさしをつくった。
うっすらと瞼をこじ開けると、
そこには陽の光を纏った半身が立っていた。
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