4-10 問いの刃



「答えて下さい。
どうして、ロックを解除したんですか。」

抑揚の無いメイリンの言葉には、
破裂しそうな感情が込められていた。

「キラさんは、
分かっていましたよね。
あれを見て、
ダニエルさんと、クォンさんは
死んだんだって。」

再び発せられた“死”というフレーズに、
キラはさらに大きく震え上がり
次第に呼吸は荒々しくなっていく。

「あれを見たら、
死ぬって。
キラさんは、
分かっていましたよね。」

「・・・ぼ、
僕・・・は・・・。」

キラは震える唇から言葉にならない言葉を漏らす。
それを無視してメイリンは問い続ける。

「答えて下さい。
どうして、
ドクター・コールマンにあれを見せたんですか。」

メイリンはガラス球のように冷たくなった瞳に
氷の涙を浮かべていた。

「キラさんは、
何人殺せば、
気が済むんですか。」

その言葉に、キラは大きく首を振る。

「ちっ、
違・・・っ、
ちが・・・っ。」

メイリンの言葉を全身で否定するように、
キラの身体は大きく痙攣する。

「知ってるんですよ。
Freedom Trail。
キラさんのことですよね。」

メイリンの言葉は強く、意志を持って、
次第に言葉はキラに投げつけられていく。

「沢山の赤ちゃんや、
子どもたちや、
ナチュラルの人たちや、
コーディネーターの人たちや・・・」

あの時目にした映像が甦り、
キラはそれから逃れるように身をよじった。
それを逃さぬように、
さらにメイリンは言葉を突き刺していく。

「みんな殺されたんです。
あなたを創るために。」

キラは叫びだしたい衝動に駆られ大きく息を吸い込んだ拍子に車椅子から転落した。
そのキラを見下すような位置で、
メイリンの鋭利な言葉がキラを刺し切りつけていく。

「あなたのために・・・。
あなたのせいで・・・っ。
みんな、死んだんです。」

メイリンは憎悪に顔を歪め、
吐き捨てるようにキラに言葉をぶつける。

「どうしてっ!!
どうして、生まれてきたのよっ!!」

メイリンの緋色の髪は振り乱れ、
瞳から涙は散っていく。

「あんたがっ、いるからっ!!
沢山・・・っ、みんな死んだのよっ!!」

荒々しく肺が潰れる程呼吸をし、
唾が飛ぶ程に激しく、
言葉を吐き出す。

「なんでっ!!
なんで、生きてるのよっ!!」

「今もっ!!」

後ずさっていたキラの中で、
何かが切れた。

「答えなさいよっ!!
ねぇっ!!」

メイリンは糸が切れたように首をもたげ、
すすり泣いた。

「なんで・・・。
どうして、
殺すの・・・。」

「どうして、
いるの・・・。」

「どうして、
生まれたの・・・。」

「どうして、
生きているの・・・。」

――あなたも・・・
  わたしも・・・

――どうして、
  コーディネーターなんて、
  いるの・・・



扉をはさんでいても響いてくる足音はけたたましく、
まるで事態の緊急性や重大性を示しているかのようだった。
しかし、そのどちらとも無縁の世界にいるキラとメイリンは
それぞれの闇の底へと沈んでいく。
荒々しく扉が開き、ドクター・シェフェルの激が飛んだ。
今すぐ2人を引き離せ、と。
その音声が聴覚を刺激しても、心に届くはずは無く
2人は何の反応を見せず
ただ肉体がそこに存るだけだった。 



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