4-9 告発



病室の扉が開いたことを、
メイリンの聴覚と視覚は確かに知覚していた。
しかしその事象を認識はしていなかった。
何故ならメイリンは、
全てを閉じていたから。
それでも、わかった。
そこに、キラがいるのだと。

メイリンの指が微かに動く。
それは、自らの意志に基づく内発的行為。
メイリンの指が、
震えながらも確かに動き拳をつくり、
開かれる。
動く。
メイリンの腕が伸び、
車椅子の操作キーに掌を置く。
そして、車椅子はキラへ向かって動き出した。




――ずっと、真っ暗だったの。

――ずっと、怖かった。

――ずっと、嫌だった。
  自分が。
  気持ち悪かった。

――でも、時々聴こえてきたの・・・。

――アンリの声・・・。

――眩しいなって、思ったの・・・。
  感じたの、
  ひとの・・・光・・・。

――素敵だなって、思った。

――でも・・・。
  私には、
  無いんだって、
  思った・・・。

――私は、穢れているから・・・。



「キラさん。」

その聞き覚えのある声に、
キラは覚醒したように瞳を見開き視線を向ける。
それに時間差を置いて身体がついてくるように、
不自然な震えを伴いながらキラは姿勢を視線にあわせる。
その先には、
自分と同じように希望を絶たれたメイリンがいた。
もう一度、
メイリンはキラの名を呼ぶ。

「キラさん。」

その声は記憶の中の彼女から想像がつかないほど、
低く、
冷たく、
枯れていた。

病室の壁よりも白い顔面の、
沈み込んだ瞳がひときわ存在感を増している。
そして薄紫色に染まったふくよかな唇から、
ぽとり、ぽとり、
と、言葉が落とさせる。

「コールマンさんが、
死にました。」

“死”というフレーズに、
キラはビクリと大きく震え上がった。

「どうして、か。
知っていますよね。」

キラは唇を震わせ、

「キラさん、
あなたが殺したんです。」

小刻みに首を振った。

「私、見たんです。」

カチカチと、キラの口元で歯が鳴る。

「研究室で。」

キラは瞬きすることも無く、
メイリンから視線を外すこともできず、
その瞳に研究室を映し出す。

――あの時・・・。
  アスランと一緒に研究室に駆けつけて、
  そしたらダニエルが頭部の一部を失い倒れていて、
  メイリンにクォンさんが銃口を向けていて、
  メイリンを介抱していたら
  あの情報が――

  濁流のように身体中を駆け抜け、
  飲み込まれ、
  侵されていったんだ・・・。

――クォンさんが叫んだことが、
  真実だと思ったんだ。
  それから・・・

キラは記憶の糸を手繰り寄せ、
アクチュアリティを伴った過去が一気に甦る。
アスランが情報を記録しながら画面を切り替えパスワードを設定して複数のロックをかけた。

――それを、僕は・・・。

アスランが別のPCで同様の作業を行い、
治療と遺体の収容のためにドクターたちが駆けつけたあの時・・・。

――僕は・・・。

「キラさんが、ロック解除したの。
私、見たんです。」

メイリンはガラス球のような瞳を動かさずに、
言葉を吐く。
メイリンの狂気にも似た意志は、
キラの意識に絡みつき
離しはしない。 




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