3-9 ニコルが伝えるもの



通信を切ると、イザークは背もたれに背を預け宇宙を仰いだ。
掌をかざした眉間には深い皺が刻まれている。

少数先鋭のジュール隊は個性の強い面々の寄せ集めとして名が知れている。
事実、旧ミネルヴァクルーを始めとして、
隊長に言わせれば “餓鬼” や “じゃじゃ馬” が多いことは確かである。
しかし、ジュール隊の功績は個人プレーによって積み重ねられてきた訳ではない。
任務となれば、 それぞれ灰汁の強い個性等が歯車のように咬み合い有機的に働き、
戦艦1隻1部隊では不可能と判断されてきた任務をことごとく遂行してきた。
いつしかジュール隊はgiant-killerの異名を持つようになった。
そのジュール隊の功績の裏には イザークとディアッカの
巧妙かつ絶妙な采配があった。
人間性ばかりではなく 軍人としてのスキルに裏打ちされた動ける信頼関係を構築し、
個性を潰さずに連動させる。
故に、じゃじゃ馬揃いのジュール隊は、 結束が強い。
もっとも、その結束は任務の際のみに具現化するため、
クルーには意識されていなかった。
それは馴れ合いの空気を駆逐する副次的な産物であった。
死と隣合せの任務遂行時、
隊を機能させるためには、
換言すればクルーの命を護り生き抜くためには、
馴れ合い程厄介なものは無かったからである。

その風貌から、厳格な冷血漢と見なされるイザークは、
その胸の内で熱く部下を信頼し
かけがえの無い仲間として深い情を抱いていた。
態度と言葉に表出しないイザークの情を、
誰にも悟られず無意識の領域に、
しかし確実に部下の胸の内に伝えていたのは、
他でもないディアッカだった。
戦場では不謹慎と錯誤される程軟派な印象を受けがちなディアッカは、
全体を俯瞰しながら物事を客観的に判断する冷静な視点を持ち、
飄々とした物腰で人の隙に器用に入り込む。
その胸の内にはイザーク同様に、
仲間へ寄せる熱い信頼があった。

――二度と失ってたまるか・・・。

彼等の脳裏に、 幼さの残る少年の柔らかな笑顔が過る。
彼の時は止まったまま、
彼等の胸に留まったまま、
彼等に今も伝える。

戦友と、共に戦う心強さを。
戦友を、亡くすということを。
戦友の、かけがえの無さを。

イザークとディアッカは表情を歪ませる。
この悲しみに、
無力感に、
喪失感に、
憤りに・・・。
この感情に慣れることはなかった。

2度の大戦を駆けた
彼等であっても。 



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