3-10 思考



「で、どうすんだよ・・・。」

ディアッカは椅子に腰掛けると、
両腕を後頭部で組み宇宙を仰ぐように背もたれに背を預けた。

「俺たちが追ってるのって、
その根っこは全部メンデルにあるんだぜ。」

ディアッカの言葉に、イザークは正面を見据えたまま口を結んでいる。

「クォンとダニエルが死んで、
キラとメイリンが再起不能。
メンデルにいただけで・・・。」

イザークは拳を握り締め、ぎりぎりと奥歯をかみ締める。
ディアッカはそれを横目に続ける。

「ラクスはメンデル再調査の一時的中断って言ってたけど、
アスランのあの面・・・。
あいつなら単身メンデルに乗り込むかもなぁ。」

それは含意のある言葉だった。
アスランの表情から、事に猶予など残されていことは容易に読み取れた。
しかし、いったい何が・・・?
ディアッカは続ける。

「不可解過ぎる。
それに、でか過ぎる。
裏にある何かが・・・。」

そこでディアッカは口元を手で覆った。
その先の言葉を飲み込んだのだ。

――裏にあるのは、プラントの影・・・。

思考の行き着く先はイザークと同じであった。
それはプラントの過去が落とす
今は実体を見せないものの影。
その情報を掴まされたということは、
現在もなおその実体は息づいていることを示している。

――だからこそ、時間の猶予など無い・・・。

「とにかく、カリヨンがプラントに帰還してからだ。
そして、動く。」
「了解、シンとルナを呼び戻すぜ。」

とディアッカは通信を開こうとした手を止め、
眉を寄せて眼を細めた。

「そういやぁ、オーブの姫さんの様子、
なんか引っかかるんだよな。」

ディアッカの人の心の機微を読み取る能力の高さに、
イザークは尊敬の念を抱いていた。

「そうか?」
「や、感覚的なもんだけど・・・。
アスランの報告聞く前から、何かを知ってたって感じ?」

イザークは先刻のやりとりを思い起こす。

――確かに、通信が繋がった時点で既に顔面蒼白だった・・・。

「なんつーか、一番状況を飲み込んでるように見えた。
一番遠いはずなのに。」

ディアッカは、アスランによって語られなかった状況を理解しているように感じられた人物が、
カガリであった点に違和感を感じていた。
意識を失ったキラを目にしたラクスではなく、
メンデルに足を踏み入れたことのあるイザークとディアッカでもなく。
ディアッカは思考を中断すると、止まっていた手を再び動かし始めた。




「事故って、どういうことですか。」

ルナはイザークに静かに問い返した。
普段見られる不機嫌な眉間の皺は無く、
代わりに真摯な面差しが向けられた。
見慣れた絶対零度のアイスブルーの瞳に、
ルナはあたたかさを感じた。

そして、理解した。
事が、起きたのだと。

ルナの肩に手を掛け、シンが声を飛ばす。
「無事なんだろっ!!」

イザークは簡潔に事実を伝える。
ルナの血色と表情が、重力に従うように抜け落ちていった。
モニター越しにルナの悲鳴が響いた。
無機質な画面には、震えるルナを抱きしめるシンが映し出された。

ディアッカは確信する。
これが、“普通”の反応であると。
そして、カガリのそれは
ルナとは異なっていたと。
それが示すことを。

――姫さんは、何が起きたのか知っているだけじゃない。
   しいて言うなら・・・当事者・・・か。 

 


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