3-16 穏やかな時間



あれからずっと、
ラクスはキラの傍らでキラと共に時間を過ごしていた。
青白い顔で力なく横たわるその姿は、
4年前の大戦後のキラの姿と重なった。

大切な人を護りたいと、
その思いを貫いたキラ。
吹き消されようとする命の灯に両手をかざした。
護ることができた命と、
そこから零れ落ちた命。
そして自らの手で握りつぶした命。
その掌に消えぬ火傷を重ねながらキラは戦い抜いた。
しかし16歳の少年が背負うには、
これらの命はあまりにも重すぎた。

戦争が終結した後、キラは笑顔と言葉を失った。
錯乱した意識はまさに壮絶だった。
キラがキラを取り戻すには、
何よりも穏やかな時間が必要だった。
キラを傍で支え続けたのがラクスだった。

今のキラがあるのはあの時のラクスの存在があるからであり、
その時ラクスがラクスであれたのは
キラとの出会いという奇跡があったからである。

あの穏やかな時間が、2人の絆に永久をもたらした。

2人にとって互いは
限りなく自己に重なる他者である。
重なることを望み、
形作り、
これからも共にある。




呼吸が停止しているかのように身動きをしない蒼白のキラは、
静寂を保っている。
室内は凪いだように空気すら止まっている。
それが嵐の前の静けさであることをラクスは確信していた。
ラクスは凍りついたように硬く冷たいキラの掌を祈るように包み込む。

――キラ・・・。

キラがそこで見たものも、
受けた身を切るような衝撃も、
自分をなくす程の痛みも、
そのキラとひとつでありたい。

――わたくしの声が、聴こえますか。

ラクスは歌う。
思いが、
願いが、
祈りが、
あなたに届くように。


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