初めて目にするキラの表情。
先刻、今夜コル爺とストライクの話をするのだと
笑顔を見せたキラ。
待ち遠しさを胸いっぱいに膨らませた子どものように輝いた瞳に、
今は一筋の光も宿していない。
蒼白の顔をアスランに向ける。
「俺を撃つのか。」
――全てを背負う覚悟はできている。
メンデル再調査を志願する際に、既にその覚悟は固まっていた。
アスランは一心にキラを信じる姿そのままに
真直ぐな視線をキラに向けた。
エレウテリアー接近の警告が表示される。
キラは視線を画面に滑らせた瞬間、
アスランはキラの手中の銃を奪取しようとしたが、
キラはストライクを左翼に大きく転換させ、
その反動で大きく機体が傾いた。
と、キラは反動の勢いでアスランの胸部を肘で突き、
アスランは即頭部を強打し、操縦席の脇で崩れるように蹲った。
視界が蜃気楼のように揺らめき、
意識が落下するように遠のいてゆく・・・。
今、キラを独りにしてはならないことを、
それがキラを護ることだと、
アスランは理屈抜きの確信を得ていた。
――キラ・・・。
その呼びかけは声を伴わず、
ついにキラに届かなかった。
「キラっ!」
アスランの声ではない、
アスランの記憶の中の声がキラの名を呼んだ。
その声は待ち遠しさに胸を膨らませた子どもの声だった。
その声に答える様に、
キラはビームライフルを発砲した。
激しい振動と爆発音。
「消えろ。」
現実の声が冷たく放たれる、
アスランのすぐ側で。
「キラっ!そこにいるんでしょっ。
僕だよ、ケイ・・・」
キラは天井へ向けて発砲し、
崩れ落ちる瓦礫によりケイの退路を断つとともに右翼スペースにケイを追い込んだ。
「聞こえないの?
キラっ!僕、ケイだよっ。」
さらにキラは銃口をエレウテリアーに、
その先のケイに突きつける。
「待って、これでわかるよね。」
ストライクのモニターに小さなパイロットの姿が映し出された。
「わぁ!映った映った!」
小さなパイロットは画面の向こう側で無邪気な歓声を上げた。
しかしキラは沈黙のまま銃口をケイに突きつける。
キラの答えを示すかのように。
「どうしたの・・・?」
記憶の中の声が不安に揺らめく。
ケイが初めて目にしたキラの瞳は寥々とした冷たさに満たされていた。
それが誰に向けられたものなのか、
あまりに冷酷な現実を
ケイは受け止められずにいた。
しかし、
「消えろ。」
キラの言葉がケイの柔らかな胸の内に深く突き刺さる。
小さな心が、震える。
「どうしてっ?
どうして、キラが僕を撃つの?」
エレウテリアーのコックピットが開き、
小さなパイロットが姿を現した。
「だって・・・、僕は・・・。」
キラも同様にコックピットを開いた。
対峙したパイロットはヘルメットを外した。
少年はキラと同じ紫色の瞳を滲ませながらも、
真直ぐにキラを見詰めていた。
震える小さな掌を握り締めて。
「僕はっ、僕は、キラなのにっ!!」
その言葉を打ち消すように、キラは銃を構えた。
それはケイの拒絶というよりむしろ、
遺伝子の共鳴による本能的な存在そのものの否定であった。
キラは魂をどこかで落として来たかのように
感情も生気も失った表情で、
ただ涙を流した。
「どうして・・・泣くの?」
ケイの頬を、同じ涙が伝う。
その共鳴の表出が、
さらにキラにケイの存在を強く迫った。
「僕たちは、同じだよ・・・。」
ケイの否定はキラの否定であると、
自己の事実を知ったキラは無意識の内に等式を描いていた。
「だから・・・。
消えろぉぉぉぉ!!!!!!」
一発の銃声が
対峙した2機のMSの間で響き渡った。