1-27 歌と風




公式の報告の場は紛糾した。

その矛先はピアニッシモに向けられた。
イザークとディアッカによってピアニッシモの全貌が明らかになった事が発端となった。
正式名称P2グレンダ。
洗練されたフォルムと薄紫の閃光、
何よりピアニッシモという愛称から女性的な兵器として連想されやすい。
だが、その破壊力と生態系への負荷は、
おそらく既存の同種兵器の中で郡を抜いている。
そもそもこのビームライフルの源泉を辿ると大量破壊兵器ミランダへ行き着く。
ミランダの生態系への負荷は核以上で、
細胞に直接影響を与え死滅させる。
その破壊力と致死力は、
倫理の概念そのものを瓦解させるほどの規模であった。
バルティカ帝国の被爆を契機として採択されたミランダ協定により、
ミランダの保有・製造・使用全てが禁止され、
U2によって全弾廃棄処分されたという歴史があった。
そのミランダの生態系への負荷を軽減させたのがグレンダであったが、
その一瞬で大量殺戮を可能たらしめる兵器の存在が許されるはずはなく、
ミランダ協定に条項が追加される形で廃絶された。
そのグレンダをビームライフルに転用したのがP2グレンダであった。
ピアニッシモとはグレンダの威力を縮小したという意味で頭に付けられたのである。
P2グレンダはプラントで開発されたが、
試作が数丁製造されたのみで、
倫理的配慮により製造及び使用の永久停止となっている。

黒のMSが入手した経路は不明であるが、
情報もしくはピアニッシモそのものがプラントから流出したことは
動かぬ事実であった。


「どういうことだよっ!」
シンの一言だった。
立ち上がったシンの拳は俄かに震えている。
「シンっ。」
ルナはシンの袖を引いたが、
シンの憤りは驚異的な加速度で迸る。
室内は針を落としても音が聞こえる程、
静まり返っていた。
あまりに無礼な立ち振る舞いであることは明らかであったが、
誰一人としてシンを責めなかった。
シンと同じ思いだったからだ。
その場を治めたのはラクスだった。
「シン、その思いをわたくしにお貸し下さいませんか。
見過ごす訳には参りません。」
赤い光を放つ瞳はその先の真実を噛み付こうとしていた。
それが何であるかも知らずに。



2機のMSのパイロットに関する報告はアスランにより形式的内容に留められ、
一方でオーブ領海への侵入という事実を浮き上がらせる形で
一件の中のオーブの位置づけを強めた。
その流れにより今回の一件を踏まえ、
プラントによるメンデル再調査が行われる事が確約され、
オーブは技術協力をいう形で参与することが決定した。
ラクスの一言に、イザークの顔が歪む。
「つまり、特務隊に受け持てと・・・?」
「はい。」
ラクスは不動の微笑みを湛えていた。
「この一件は事態が事態ですので、
公に推し進める訳には参りません。
が、真相の解明は喫緊を要します。」
ディアッカは苦笑いを浮かべるしかなかった。
「その名の通りの任務です。
ここに居合わせたのも何かのえにしでございましょう。
それに。」
ラクスはアスランへ目を向ける。
「共に調査に当たるのは気心の知れた仲間です。」
シンとルナは驚いた顔をしてアスランへ目を向けた。
イザークとディアッカは悟ったように溜息混じりの笑みを浮かべた。
ラクスは続ける。
「調査員の一人にアスランを指名いたします。
アスランは以前メンデルの調査に関わった経験があり、
技術的にも問題は無く、
何よりプラントの皆様もアスランであれば納得するでしょう。
よろしいですか。」
アスランはラクスの視線の意味を受け止め、答えた。
「よろしくお願いします。」



ラクスとカガリは微笑みあった。
一個人として、
友として、
国として。
伸ばしあった手のひらが重なるように、
思い、
願い、
祈りが重なりあう。

宇宙からの歌声は地球からの風にのり、
どこまでも響き渡る。
それが彼等の翼になり、
世界の光となる。




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