アスランはPCを閉じようとした。
その手をキラが遮った。
「僕は・・・、大丈夫だからっ。
それに、大切な話なんでしょ。」
懸命に上げた顔は蒼白で、手は不自然な熱を帯びている。
「いや、でもっ・・・。」
アスランにはキラを止めるだけの言葉が浮かばなかった。
ラクスへ視線を移すと、
ラクスの口から意外な提案がなされた。
「音声を消してください。
そして続けましょう。」
「ラクス?」
アスランはラクスの意を汲み取ることができなかった。
ラクスは言葉を続ける。
「キラはお話を聞くことを望んでいます。
キラは大丈夫です。
わたくしにお任せください。」
一語一語やわらかく、しかし芯の通った声で ラクスは言葉をつないだ。
「わかった。」
アスランは映像を再生した。
「この黒のMSのパイロットの名はケイ。
おそらく10歳に満たないと思う。
ケイがオーブ領海へ侵入しようとした目的は、キ
ラに会う為だと。」
キラの胸を鼓動が大きく打った。
ラクスはキラに寄り添い、
「詳しくお聞かせ下さい。」
キラの言葉を代弁した。
言葉がなくても通じ合う、2人はそれ程ひとつだった。
アスランはキラにゆっくりと問う。
「キラ、ケイを知っているか?」
キラは力なく頭を横に振る。
アスランはゆるやかな口調で続けた。
「ケイは、キラが自分のことを知らないから会いたいと。
自分を見てほしいと。
その理由は言葉にできないようだった。
誰かに言われて来たのでもなく、
キラに会いたいという理由だけでMSに乗り、向かったのだと言っていた。」
キラの鼓動は調律が狂ったような響きを成し、
打ち続けた。
言葉を重ねるだけ、
アスランの中で不確実な確信が負の重圧を帯びていく。
そこから目を逸らさないと、
覚悟を決めたのは自分だ。
真実を見ると。
アスランは次に口に出さなければならない言葉が、
キラの深い傷に触れることになると分かっていた。
「ケイはメンデルに居たと。」
「大丈夫です。」
重なるようにラクスの声が響いた。
ラクスの声だけが、
キラをキラとして繋ぎとめていた。
――これ以上は酷だ。
ラクスとキラを待って、
アスランは話を切り上げようとした。
アスランの意とは裏腹に、ラクスはその先を向く。
「アスランはどうお考えなのですか。」
アスランは息苦しそうに胸を押さえるキラを見た。
――真実とは、こういうことかもしれない。
”覚悟とは背負うこと。”
父であるパトリックの言葉が浮かぶ。
「俺は、ケイは作られた存在だと思う。」
アスランは真直ぐに答えた。
「ケイはキラ、ということですか。」
「断言はできない。
だが、キラに関係している蓋然性が高い。
その動きがメンデルにあると思う。」
キラはラクスに支えられながら顔を上げアスランを見つめた。
アスランの瞳に宿る覚悟を見た。
「メンデルへ行かせてほしい。」
――アスラン・・・っ
キラはラクスの支えから身を起こすと、
アスランの方へ向き直った。
「僕も行くよ。」
キラのその言葉の奥をラクスは理解していた。
今キラに起こりつつあることの根は、
メンデルにあるのかもしれない、
その予感がキラとラクスの中で重なり合った。
ラクスはキラの手をとり微笑んだ。
アスランにはキラがそう言い出すであろうことは、
性格から容易に判断できた。
しかし、アスランの想定外であったのは、
その先にある予感だ。
アスランは不確実な確信に苛まれた。
「大丈夫だよ。」
キラの声でアスランは顔を上げた。
「多分、知らなくちゃいけないことが沢山あると思うんだ。
今。
メンデルに。」
キラは傷に自ら触れる、
澄んだ瞳で。
迷わず、
躊躇わず。
何故・・・。
「わたくしも一緒に、真実を受け止めますわ。」
その答えはそこにある。
――強いはずだ。
アスランは頷いた。
「アスランは他にも気にかけていらっしゃるのでは?」
ラクスは微笑みの奥から人の心に触れる。
「カガリのこと?」
それがキラにも移る。
「この一件とどう関係するか分からないし、
何も無いならそれでいい。
だがもし、キラとカガリの真実を使われていたら、
それは放ってはおけない。
それに・・・。」
アスランは視線を外し、言葉を濁した。
その意味を読み取ったラクスは微笑んだ。
「きっと同じお気持ちだと思いますわ。カガリも。」