1-18 2人の光




正面の大きな窓から月明かりが照らし、
打ち寄せる波の音がゆっくりと時を刻む。


キラが頬杖をつき、湯上りの熱りを浜風で和らげていた。
ふっと花の香が広がる。
「お待たせいたしました。」
それはラクスの髪の香だった。
乾かしたばかりの髪が風になびき、
肌の上を滑り落ちる。
「なんだか、懐かしいね」
キラはラクスを迎え入れるように、
ラクスの腰へ手を回した。
「はい。
マルキオ様や子どもたちと共に暮らしていた頃を思い出しますわ。」
「うん。・・・遠い昔みたいだな。」
キラはこつんと頭をラクスに寄せた。
「何か、気になることでもあおりなのですか。」
ラクスはさざんかのような笑顔を見せる。

キラの思考は心持によって変化することを、
ラクスは良く知っていた。
そして今のキラの不安の源も。

キラは顔を上げた。
「うん。カガリのことと、
アスランのこと。」

キラとラクスはお互いに包み隠さず話し合い、
言葉と気持ちを積み重ねてきた。
どんなささいなことでも、
大切に、愛しむように。

「やはり、ハルキアス卿と・・・。」
「うん・・・。僕と同じって偶然なのかな。」
キラの脳裏に蒼白のカガリが浮かぶ。

――偶然であってほしい・・・。

何の根拠も無いが、キラはそう思わずにはいられなかった。
細く、強く、目に見えない糸に引かれていく。
そんなカミュの引力を、キラは感じていた。
「それら、アスランも。
何かあったのかな。
そんな顔してたから。」
キラの瞳に、今度は不安よりも寂しさの色が射した。

――本当に、可愛らしい。

ラクスはにっこりと笑った。

「明日はアスランとお話ができるといいですわね。」
「うん。」
キラは頷いた、まるで明日を楽しみにして眠れぬ子どもの様に。
その仕草に、ラクスはもう一度笑みを零した。
「もし・・・、何か起きているとしても、
アスランやみなさんがわたくしたちに伝えなかったということは、
そこにお考えがあるからだと思いませんか。
ですから、わたくしたちにできることは・・・。」
ラクスはゆったりとキラを見上げた。
「みんながくれたこの夜を、
大切にすること、かな。」
「はい。」
と、キラはラクスを優しく抱きしめた。



ラクスの光に照らされて、
霧が晴れるように不安が消えていく。
いつも、そうだ。
2人は思いと言葉を重ねて光を作り出す。
光のあたたかさが傷を癒し、
その射す先が道を示し、
その強さが背中を押す。
だから。 2

人は寄り添いながら歩む。
これからも、ずっと。




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