正面の大きな窓から月明かりが照らし、
打ち寄せる波の音がゆっくりと時を刻む。
キラが頬杖をつき、湯上りの熱りを浜風で和らげていた。
ふっと花の香が広がる。
「お待たせいたしました。」
それはラクスの髪の香だった。
乾かしたばかりの髪が風になびき、
肌の上を滑り落ちる。
「なんだか、懐かしいね」
キラはラクスを迎え入れるように、
ラクスの腰へ手を回した。
「はい。
マルキオ様や子どもたちと共に暮らしていた頃を思い出しますわ。」
「うん。・・・遠い昔みたいだな。」
キラはこつんと頭をラクスに寄せた。
「何か、気になることでもあおりなのですか。」
ラクスはさざんかのような笑顔を見せる。
キラの思考は心持によって変化することを、
ラクスは良く知っていた。
そして今のキラの不安の源も。
キラは顔を上げた。
「うん。カガリのことと、
アスランのこと。」
キラとラクスはお互いに包み隠さず話し合い、
言葉と気持ちを積み重ねてきた。
どんなささいなことでも、
大切に、愛しむように。
「やはり、ハルキアス卿と・・・。」
「うん・・・。僕と同じって偶然なのかな。」
キラの脳裏に蒼白のカガリが浮かぶ。
――偶然であってほしい・・・。
何の根拠も無いが、キラはそう思わずにはいられなかった。
細く、強く、目に見えない糸に引かれていく。
そんなカミュの引力を、キラは感じていた。
「それら、アスランも。
何かあったのかな。
そんな顔してたから。」
キラの瞳に、今度は不安よりも寂しさの色が射した。
――本当に、可愛らしい。
ラクスはにっこりと笑った。
「明日はアスランとお話ができるといいですわね。」
「うん。」
キラは頷いた、まるで明日を楽しみにして眠れぬ子どもの様に。
その仕草に、ラクスはもう一度笑みを零した。
「もし・・・、何か起きているとしても、
アスランやみなさんがわたくしたちに伝えなかったということは、
そこにお考えがあるからだと思いませんか。
ですから、わたくしたちにできることは・・・。」
ラクスはゆったりとキラを見上げた。
「みんながくれたこの夜を、
大切にすること、かな。」
「はい。」
と、キラはラクスを優しく抱きしめた。
ラクスの光に照らされて、
霧が晴れるように不安が消えていく。
いつも、そうだ。
2人は思いと言葉を重ねて光を作り出す。
光のあたたかさが傷を癒し、
その射す先が道を示し、
その強さが背中を押す。
だから。 2
人は寄り添いながら歩む。
これからも、ずっと。