3-3 掌



いくつもの鐘から奏でられる旋律。
古よりその鐘の音は、
時を、
祝福を、
別れを、
人々に告げる。
馳せられた思いをのせて、
幾重にも重なり響き渡る旋律は、
人々の心に染み入り、
癒す。

カリヨン。

唯一無二の鐘、
そのひとつひとつの鐘の音が
重なり合い、
響きあうことで奏でられる旋律のように、
かけがえの無い、
ひとりひとりの人間と共に、
助け合い、
語り合い、
未来を描き歩んでいきたい。

カリヨンの由来、
それはラクスの思いの表出であった。




カリヨンに着艦しコックピットを開くと、
天の女神が舞い降りた。

「キラっ!」

ラクスはキラの手を取り頬に寄せた。
血が通っていないかのように、乾ききり凍てついた掌。
いつもラクスの手をあたたかく包む掌も、
細い指を絡め取る長い指も、
まるで初めて触れる他者のもののようだった。

「キラ。」

ラクスは瞳を悲痛に潤ませ、
歌うように呼びかける。

「命に別状は無い。
とにかく、医務室へ。」

そこでラクスは初めてアスランの瞳を直視した。
消え入る灯火を必死に焚きつけるような、
儚い眼光が揺らめいていた。
ラクスは、 外傷が見られないキラの状況の深刻さを瞬時に理解した。
そして、それを背負う者の姿も。
それを引き受ける覚悟も。

「はい。」

ラクスは冷え切ったキラの掌を、
熱を分かつように包み込んだ。

――キラ。
   わたくしが、傍におります。
   あなたの傍に。

祈るように、 瞳を閉じて。


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